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首相に学ぶ!? 会話で「はぐらかす方法」

「ご飯論法」で論点をずらす安倍話法

政治家や官僚たちの不適切な発言や不正問題が明らかとなり、閉塞感が続く日本の政治——。憲政史上最長が見えてきた安倍首相。政治家・安倍晋三がここまで「強い」理由はどこにあるのか? また、安倍政権のどこが問題なのか?  書籍『「安倍晋三」大研究』(望月衣塑子&特別取材班・佐々木芳郎 著)より、政治家・安倍晋三の話法を紹介します。

答えたくないときは「論点をずらす」

 安倍首相や彼に忖度する大臣や官僚たちが使う、もっとも特徴的な話法に、「ご飯論法」がある。法政大学キャリアデザイン学部の上西充子教授と、ブロガーでマンガ評論家である紙屋高雪氏が発案し、命名したものだ。上西教授は現在、国会を可視化させるパブリックビューイングを通じて、不誠実な答弁が横行する国会審議を世間に伝える活動を行っている。
 たとえば、こんなやり取りだ。

Q 「朝ごはんは食べなかったんですか?」
A 「ご飯は食べませんでした(パンは食べましたが、それは黙っている)」
Q 「何も食べなかったんですね?」
A 「何も、と聞かれましても、どこまでを食事の範囲に入れるかは、必ずしも明確ではありませんので……」(上西充子教授のツイッターより)

「朝ごはんは食べなかったんですか?」と聞かれて、パンを食べていたなら、ごく普通な回答は「食べました」だろう。しかし、何らかの理由(たとえば不都合な事情があるなど)で「食べました」と答えたくない場合、論点をずらそうとする心理が働き、独特の理屈を展開する。「朝ごはん」=「朝食全般」について聞かれているのに、あたかも「ご飯(白米・玄米)」について問われているかのように、勝手に論点をずらして「ご飯は食べていません」と答えるのだ。実際に「朝ごはんを食べたか」については答えず、相手(国会の場合は、
主に国民)に「朝ごはんを食べていなかったのか」と思わせることもできるだろう。

 上西教授は、先にあげた会話に続くやり取りも紹介している。

Q 「では、何か食べたんですか?」
A 「お尋ねの趣旨が必ずしもわかりませんが、一般論で申し上げますと、朝食を摂る、
というのは健康のために大切であります」
Q 「いや、一般論を伺っているんじゃないんです。あなたが昨日、朝ごはんを食べたかどうかが、問題なんですよ」
A 「ですから……」(上西充子教授のツイッターより)

質問の主旨を曖昧にして煙に巻く方法

 安倍首相の国会答弁は、こうした話法を使ったやり取りが少なくない。私たちは国会中継を見るとき、「ああ、○○さんは、何か隠したいことがあるのかもしれないな」という観点を持って政治家の発言を受け止める必要があるのかもしれない。

 安倍首相が実際に行ったご飯論法の一例を挙げておこう。
 総裁選中の二〇一八年九月一七日、安倍首相がTBS『NEWS23』に出演したときのことだ。キャスターの星浩氏から、加計孝太郎理事長とゴルフや会食を頻繁に重ねたことの是非を問われて、
「ゴルフに偏見をもっておられると思います。今、オリンピックの種目になってますから。ゴルフがダメでですね、テニスはいいのか、将棋はいいのか、ということなんだろうと思いますよ」と持論を展開。
 キャスターの質問の意図は、もちろんここにはない。「国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範」では「関係業者との接触に当たっては、供応接待を受けること、職務に関連して贈物や便宜供与を受けること等であって国民の疑惑を招くような行為をしてはならない」と定められていることを前提に、星氏は「学生時代からの友人であっても利害関係者との飲食やゴルフなどの交流を持つこと自体を、慎むべきではないか」と追及したのだ。しかし、安倍首相は「ゴルフはなぜ、いけないんだ」と、開き直って、質問の論点を曖昧にしてしまう。見ごとなすり替えというほかない。

 そして、さらに「はっきりと申し上げたいのは、利害関係者から一円の献金も受けていないわけですから。加計さんからもそうですし、獣医師会からも一円も献金を受けていません」と続けた。「一円も献金を受けていない」と強く否定することで、視聴者に「間違った情報」を質問者はぶつけているのではないかという「印象」を植え付けながら、安倍首相は「相手が利害関係者であっても、以前からの友人だから問題ない」という独特の論理を展開(披露)した。

 ちなみに、『週刊文春』二〇一七年四月二七日号には、加計氏が過去に加計学園の関係者に、「(安倍首相には)年間一億円ぐらい出しているんだよ。あっちに遊びに行こう、メシを食おうってさ」と発言。一方、安倍首相は、「加計さんは俺のビッグスポンサーなんだよ。学校経営者では一番の資産家だ」(前同号)とコメントしたとされている。

望月衣塑子 (もちづき・いそこ)

東京新聞記者。1975年、東京都出身。慶應 義塾大学法学部卒。千葉、埼玉など各県警担当、東京地検特捜部担当を歴任。2004年、 日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の事実をスクープし自民党と医療業界の利権構造を暴く。社会部でセクハラ問題、武器輸出、軍学共同、森友・加計問題などを取材。著書 に『武器輸出と日本企業』、『新聞記者』(ともに角川新書)、『追及力』( 光文社新書 )、『THE 独裁者 国難を呼ぶ男 ! 安倍晋三』(KK ベストセラーズ)『権力と新聞の大問題』『安倍政治 100のファクトチェック』(ともに集英社 新書)など。

特別取材班  佐々木芳郎(ささき・よしろう)

写真家・編集者。1959 年生まれ。関西大学商学部中退。 在学中に独立。元日本写真家協会会員。梅田コマ劇場専 属カメラマンを皮切りに、マガジンハウス特約カメラマ ン、『FRIDAY』(講談社)専属契約、『週刊文春』(文藝 春秋社)特派写真記者、『Emma』(前同)専属契約を経 て、現在は米朝事務所専属カメラマン。アイドルからローマ法王までの人物撮影取材や書籍・雑誌の企画・編集・ 執筆・撮影をしている。立花隆氏との共著『インディオの聖像』(講談社)は 30 年のときを経て制作予定。

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