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【CSRの品格】自社の強みを活かし社会的責任とともに企業価値を高めるCSRの本質

連載『CSRの品格』第1回:関西大学 教授 髙野一彦氏


 アメリカ、ヨーロッパで学んだCSRのプロフェッショナルであり、「事業と一体化した価値共創型CSR」を推進する株式会社アデランス上席執行役員の箕輪 睦夫氏がホストを務め、CSR領域のキーパーソンを迎えて対談を行う本連載
 今回、改めて「CSRをどう捉えるか」「どうすれば持続可能な形で目標を達成できるか」について、ゲストの関西大学社会安全学部・大学院社会安全研究科教授であり、日本経営倫理学会 常任理事を務める髙野 一彦氏と語り合った。


■CSRはボランティアではない

 現代企業には「企業の社会的責任」と訳される「CSR(:Corporate Social Responsibility)」が求められている。しかし、この言葉には「DX(:デジタルトランスフォーメーション)「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)などと同様に、スローガン先行という印象が否めないようにも感じるが、二人は現状をどのように捉えているのだろうか…。

───まだ成熟しているとは言い難いように感じますが、改めて、現在の日本におけるCSRの状況について教えてください。

■髙野氏(以下「髙野」と記載)2003年を「CSR元年」と言う研究者が多いのですが、この頃から本格的に取り組む企業が増え、徐々にそのプレゼンスが高まってきていると感じます。

●箕輪氏(以下「箕輪」と記載)─私も講演などの場を通じて、事業とCSRの関連性を強めようとしているCSRに取り組む企業が増えてきているように思います。多くの企業の顧問を務めていらっしゃる髙野先生からは、様々なお取り組みについて聞くことができ、感謝しています。

■髙野)─とりわけアデランスは「事業と一体化したCSR」を見事に推進しています。日本経営倫理学会のCSR研究部会でもその取り組みが報告され、大きな注目を浴びました。

●箕輪)─私たちはウィッグを4歳から15歳までの病気やケガなどの理由でウィッグを必要とするお子さまへ届ける「愛のチャリティ」という活動を40年以上続けてきました。これは自然なウィッグを自社工場で制作することができる「我が社の強みを社会で活かしたCSR」の原点です。それらを社員へ周知する際にしっかりと事業に結びついている点を積極的に伝えました。

■髙野)─ここまでの道のりで、どのあたりにご苦労されたのでしょうか?

●箕輪)─私がヨーロッパ、そしてアメリカでの数年間にわたる駐在期間を終えて帰国すると、外国の投資ファンドが経営に大きくかかわり、利益追求に偏重した方針の下で、日本の社員に元気がなかったのです。そこでアデランスの創業以来お客様に寄り添い、社会から信頼を得てきた活動にスポットを当てて「CSR」という視点から少しでも社員が誇りや、やりがいを持てるようになればとアデランス型のCSRを構築しようと思いました。私が見て感じてきた海外のCSRはそのまま訳しただけでは理解されません。

 しかし、現代のCSRを包含する考えは以前から日本にもありました。1754年に近江商人である二代目中村治兵衛(1685-1757年)が家訓として、当時15歳の孫に書き残した遺言状、それが「三方よし」の商人哲学(下段【註】参照)です。

【註】「三方よし」とは近江商人の理念とその商法。商売において売り手と買い手が満足するだけでなく、社会(世間)に貢献できてこそよい商売といえる。

 欧米のCSRの原点と言われるイギリスの哲学、倫理学者で「経済学の父」と称されるアダム・スミス(1723-90年)の『道徳感情論』が書かれたのが1759年です。この5年も前に日本には「三方よし」の考えがあり、欧米型ではないアデランス独自のCSRを周知するために、日本人にとっては馴染みのある「三方よし」を標ぼうすれば理解しやすいと、創業者である根本信男会長にも賛同を得て、スタートさせました。

アダム・スミス(パブリック・ドメイン)

 

■髙野)「売り手よし、買い手よし、世間よし」三方よしですね。

●箕輪)─その後はアデランスが行っている「社会的価値を持った活動」についてまとめた小冊子『笑顔のために』をつくりました。しかし、それは社外へのアピール冊子ではなく、まず社員に当社の社会的価値を持った活動について理解してもらうためのものです。自分たちの仕事が、多くの人を笑顔にしていることを知ってもらいたかったのです。

■髙野)─それは素晴らしいですね。改めて現在のアデランスが掲げるCSRの定義を教えていただけますか。

●箕輪)─『「社会的価値を持った活動」をさらに深め、広げていくことで、お客様や社会からの信頼に基づいた、健全で永続的な企業成長を目指すこと』です。

■髙野)─お客様や社会からの信頼に基づいた、持続的な企業の成長、それがCSR経営において重要な視点だと思います。

 

箕輪 睦夫(みのわ・むつお)…株式会社アデランス 上席執行役員 管理本部 副本部長 グループCSR担当

 

───意外です。CSRは企業がイメージアップのために行う活動だという認識がありました。

●箕輪)─ボランティア的な活動はもちろん素晴らしいのですが、なかなか継続することは難しいと思います。経営が順調な時は積極的に取り組みますが、経営が少しでも厳しくなると急に消極的になってしまう傾向があります。CSRは「企業の社会的責任」ですので、責任は継続することではじめて果たすことができると思っています。

■髙野)─そのためには活動が事業と結びつかなくてはなりません。例えば災害復興などでは、時間の経過とともに企業の支援活動が減っていくというデータがあります。短期的な社会貢献ではなく、継続性のあるCSR活動にしなければならないのです。

●箕輪)─ボランティアとなってしまえば、利益を出す必要がないため、担当者は投資を必要とする事業計画を作らずに済んでしまいます。私たちのケースですと、病院内ヘアサロン事業がわかりやすい例として挙げられます。

 これはまさにボランティア精神からのスタートでしたが、事業化を意識してからは、様々なパートナーの協力もあり店舗数は大きく増えています。また、災害等でウィッグを失った方たちへの無償提供という形はとりませんでした。

 私たちが取り扱うウィッグは、無料でプレゼントしてお終いという商品ではないからです。被災者の方への配慮として、ウィッグのお手入れサービスを割引きをして提供しておりましたが、活動を継続するためにあえて有料といたしました。お客様は私どものウィッグお手入れ技術に何かあれば遠慮なく注文することができますし、私たちもプロとしてしっかりとお手入れしています。だからこそこの活動は続いているのです。

■CSRは企業価値を高める

 善いことでも続かなければ意味がない。CSR活動を事業と一体化させることの重要性はよくわかった。しかし、他にもCSRに注力する意義は多いにありそうだ。

──CSRには企業にとって事業収益以外にも様々な効果があるように感じますが、いかがでしょうか。

●箕輪)─CSRと一体化した事業だからこそ社会に貢献し、お客様の笑顔を増やしているわけですから、社員のモチベーションの源泉になっています。また、CSRを基点とすれば納得・共感が得やすくなります。その結果、組織内のセクショナリズムがなくなり、組織横断的な議論やアイデアが増えました。他にも、パートナーシップなどの広がりやつながりの創出も大きなメリットだと感じます。想像していなかったようなつながりができることで、事業自体がより良くアップデートされますし、時には自社だけでは実現できないような新しい事業が生まれることもあります。

■髙野)─社員やパートナーなどのステークホルダーと価値観を共存することでモチベーションの向上を図り、それが業績の向上に寄与した点は、アデランスのCSR活動の特筆すべき点だと思います。

●箕輪)─おっしゃる通りですね。事業に継続性が生まれ、組織内での価値共有が可能となるばかりか、ステークホルダーとの関係深化やシナジーの創出も期待できる。しかし、そんなCSRは多くの企業にまだまだ浸透していないように感じる。

髙野 一彦(たかの・かずひこ)…関西大学 社会安全学部・大学院社会安全研究科  教授。日本経営倫理学会 常任理事

 

──企業がCSRをうまく取り入れるための課題と解決策は何でしょうか。

●箕輪)─自社の強みや事業について、社員が正しく理解できていないのではないでしょうか。熱い思いを持つ根本信男会長や津村佳宏社長がいらっしゃったことは大きな意味があったと思っています。自社の強みを活かすこと、そしてそれを事業に結びつけること。創業理念やお客様からの声などにそのヒントがあるはずです。

■髙野)─CSR活動はやはり「経営」の視点が必要だと言えそうです。

●箕輪)─CSRを担当される方は法務や総務といった部署が行うことが多いと思いますが、顧客との接点が多い「営業」は宝の山です。

 顧客情報をたくさん持っている営業に話を聞き、組織内を横断した掘り起こしを行い、すべてを洗い出す。そして、徹底的に顧客目線で分析していくことです。そこから見えてくることは多いですし、自社の強みも再確認できるはずです。

■髙野)─顧客を知っている営業を巻き込み、徹底的に顧客目線で見るようにする。こういった考え方やアプローチはSDGsにも共通しそうですね。

●箕輪)─私たちは「SDGsを別の物として取り組まなければならない」とは思っておりません。国連が示してくれたSDGsのお陰で、目標がより明確になったと前向きに捉えています。ようやく時代が私どものCSRに追いついてきたな、と感じています(笑)。もはやCSRやサステナビリティは経営の中核課題の一つなのです。

■髙野)─私も強くそう思います。ESG投資(「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に配慮した企業への投資)の投資残高がここ数年で飛躍的に伸びており、今後、多くの企業がCSR活動を経営の中核課題として認識するようになっていくのではないでしょうか。それに伴って、CSR担当者のプレゼンスも上がっていくはずです。

●箕輪)─この対談が、CSR担当者の皆さんにとって、良いきっかけになってくれれば嬉しいですね。先生、本日はありがとうございました。

■髙野)─こちらこそ、ありがとうございました。

CSR

■人は情熱のもとに集まる

 CSRは単なる社会貢献ではなく、企業の社会的責任を果たすことで企業価値価値を高めるもの。現在、CSRに携わる方にとって、目から鱗だったのではないだろうか。様々な企業が自社の強みを活かした継続的なCSR事業を展開し続けることで、企業や顧客の笑顔が増え、その中から新たなパートナーシップやビジネスも生まれる…。二人の話からは、そんな、CSRが導く明るい未来を感じた。

 かつて、「パナソニック」の創業者である松下幸之助(1894-1989年)に学ぶため「松下資料館」を訪れた箕輪氏は、CSRに関する様々な質問をし、遠藤紀夫館長より松下幸之助の言葉として教えてもらった。

 その際、館長から言われたこの言葉が忘れられないと、最後に話してくれた。

「人は情熱のもとに集まるのです」

 今後のCSR担当者の情熱に期待したい。

 

 

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一個人 編集部

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