「サウジアラビア人と結婚した妙齢の美女の悩みに答える」の巻【中田考のレンタルおじさん】
中田考「レンタルおじさん、始めました」連載第4回
新刊『タリバン 復権の真実』を上梓し、いま講演にお呼ばれして東奔西走中のイスラーム法学者・中田考先生。しかし、レンタルおじさんの依頼は依然絶えません。男女問わず。どんなに忙しくても時間の許す限り会って依頼者のお話しをしっかりじっくり聞かれる中田先生の姿を見ていますと、東大に3回落ちた岸田文雄首相が「特技は、人の話をしっかり聞くこと」だと自慢しているのがアホらしく思えてきます。中田先生は依頼者の心の扉を開き、さまざまな失敗談や悩みを打ち明けさせます。依頼者は気づかぬうちに滔々と話し出しているといった様子。すると先生は時に笑いがこらえきれなくなって「いやー、みんなちがって、みんなダメだからねー」とクックックックと微笑み、優しく諭しはじめます。悩みに対しては子どもから大人まで、みんなに読んでもらうと、生きるのがラクになると評判の中田先生の名著『みんなちがって、みんなダメ:身の程を知る劇薬人生論』(KKベストセラーズ)を紹介するとして、今回はなんと渡航先で20歳年下のサウジアラビア人と恋をし、結婚して日本に連れて来てしまった女性からの悩み……。妙齢の実に美しい女性なのです。さて、中田先生はどう答えのでしょうか。
依頼者:私は数年前にサウジ人との再婚を期に改宗したムスリムなのですが、本日は中田先生にイスラムの価値観を持ちながら日本でどう過ごしたら良いかなど聞きたく伺いました
中田:ご依頼ありがとうございます。サウジ人と言えば、もう30年前になりますが、サウジアラビアの首都リヤドの日本大使館で専門調査員として働いていていました。その間にサウジ人と一緒にメッカ巡礼をして、そこで知り合ったサウジ人の書店主の出版社から博士論文を出版したりしたので、よく知っています。新しい旦那さんはどのような方なのですか?
依頼者:私の20歳年下で日本の大学に留学していたんですが、卒業した今は休職しています。ただ休職と言っても就活をしたりバイトで稼いだりっていうことはあまりなくて、殆ど家にいますね(笑)
中田:「アラブ」というのは、「雄弁に話す民」という意味だ、というぐらいで、アラブ人は一般に口は動かしても身体は動かさない人たちですが、アラビア半島のアラブの中のアラブであるサウジ人は特にそうですね。特に石油が湧き出して働かなくてもオイルマネーが入ってくるようになってからは、本当に働かなくなりましたね。
依頼者:そうなんです。ともかくしゃべることはよくしゃべる。立派なことだけは言うんですが、言葉だけなんです。ちっとも行動が伴わない。実は日本語もよくしゃべるので、聞いている日本人はこの人は日本語ができるのだろうと思っているんですが、実は読み書きはできないんです。
中田:よくそれで卒業できましたね。
依頼者:弁舌巧みに先生や学生たちをうまく丸め込んだみたいです。
中田:ああ、わかります。あまりに堂々と話すので、なんとなくこの人は偉いんじゃないかと思ってしまうんですよね。私たちのような奥ゆかしい日本人は。
依頼者:ええ、世渡り上手というか。でも悪い人じゃないんですよね。他人を騙してお金を巻き上げるとかするわけではないし。ただともかく偉そうなことを言っているだけで、汗をかかずに楽をして生きて生きたい、ということなんですよね。
中田:それで生きていけるなら、それでいい。生きていけなくなれば、その時に考えればいい。今困っていないのに悩んだり心配したりするのはばからしい、そんな感じでしょう。
依頼者:そうなんです。楽観的と言うか、ポジティブなんです。
中田:私たち日本人は見ててなんだか腹が立ってくるんですけど。イスラーム的にはそれで正しいんですよね。幸せでなんでも神に感謝して生きることがイスラームの神髄ですから。
依頼者:彼を見てると、将来のことを思い悩んでいる自分の方がばかにみえてきますね。