「ジェンダー平等が全てのジェンダーのため」になるのはなぜか?【渡辺由佳里×治部れんげ】
『アメリカはいつも夢見ている』新刊記念トークイベント【渡辺由佳里×治部れんげ】②
エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家の渡辺由佳里さんが新著『アメリカはいつも夢見ている』を刊行。本書の重要なテーマのひとつに「ジェンダー問題」がある。発売を記念して、渡辺さんが考える「ジェンダー問題の乗り越え方」について、『「男女格差後進国」の衝撃』という著書もあるフリージャーナリストの治部れんげさんに話を聞いてもらった。歴史を通して日米のジェンダー意識の差も考えてみたい。第2回を公開。
■「社会を変える」ために必要なこととは?
渡辺:価値観が変わるのには時間がかかりますから、だから根気よく繰り返し、一歩ずつ前に進んで行くしかないんです。
これはよく話す例ですが、いまアメリカでは同性結婚ができますよね。アメリカで最初に動きが起こったのは2000年、ハワード・ディーンがバーモント州の知事だった時でした。彼は同性結婚ではなく、「シビルユニオン」という、結婚と同じ法的な権利が得られる制度を推して可決させたんです。
その時に、ディーン州知事は左からも右からも叩かれました。宗教右派からは「殺してやる」みたいな脅しを言われて、左の人からは「同性結婚まではいかない生ぬるい制度をやって、お前みたいなやつはだめだ」みたいに叩かれたんですが、でもやり抜いたわけです。
シビルユニオンは完璧ではないけれども、一歩進んだわけで、それがあったからこそ数年度にマサチューセッツ州がアメリカではじめて同性結婚を制度として可決させることができたんです。
でも私が知る限り、振り返ってハワード・ディーンに「ごめんなさい、私が間違ってました」って言った左の人はいないんです。
もうひとつ、私が嫌悪感を持っていることがあります。2016年の大統領選挙の際、民主党側の予備選で最終的にバーニー・サンダースとヒラリー・クリントンとが競り合いになっていた時、ニュー・ハンプシャー州の民主党大会で、ヒラリー・クリントンを推している女性の政治家に対してサンダース候補の支持者たちの若い男性たちが「ビッチ」みたいなものすごい言葉で揶揄していたのです。でも、一緒に来ている周りの若い女性たちは何も言わないんです。それどころか「私は女性器で投票するわけじゃない」みたいなことを言うわけです。
でもその女性たちにしても、もっと上のジェネレーションの女性が一生懸命やってきたからこそ、今の権利を持ってるんです。
最初の頃のフェミニズムは白人女性の高等教育を受けた人たちが主導していました。それをもって「あんなフェミニズムはだめだ」と非難する若い世代の女性がかなりいます。でも初めの世代の人たちが一生懸命頑張ったからこそ自分たちも参政権も得ることができたんです。いまの感覚ではそれで十分ではないかもしれないけれど、当時のその一歩はすごく大きな一歩だった。それを、いまの若い人たちにも考えてほしいです。「自分が命をかけて、牢獄に放り込まれるようなことをしてでも次世代の人たちのためにやった活動が、次世代の人たちから叩かれる覚悟があなたにはあるんですか?」と憤りを感じます。
治部:前の世代の人たちが戦って、法や制度を変えてきたからこそ、現在の当たり前があるんですよね。
渡辺:そうですね。ですからジェンダー問題の解決でも、同性婚でも、「法律を変える」ことがすごく大切だと思いますし、そこにエネルギーを注ぐべきだと思います。
法律が変わっていくことによって、当たり前の意識になっていく。実際、法律によって職場でも男女を同等に扱わなければいけない形になってきているわけですから。それが当たり前になってくると、「なんで昔はこうじゃなかったんだろう?」みたいに意識が変わってくるわけですよね。
アメリカでは、かつては異なる人種の人同士が結婚するのが違法だったわけです。でも、いまではそんなこと考えられませんよね。例えばイギリスでは、男性同士のセックスは長年処罰の対象でした。それがいまの時代は、イギリス人男性作家が書いた男性同士のロマンス小説が一般読者向けのベストセラーになったりしています。
このように社会を変えていくことについて「法を変えていく」ことはとても重要です。だから、そこにエネルギーを費やしている人が少々気に入らない発言をしたからといって叩くのは、法律を変えようと努力してきた人たちが長年やってきていることを潰すことになるので、本当にやめて欲しいと心からお願いしたいです。
治部:人生は限られていますから、文句だけを言ってるよりは変えられる現実を変えておきたいということは完全に納得です。
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