「赤ちゃん扱い」するファンへの投稿が大論争へ。なぜオタクは “推し” を「可愛い」と思うのか?【梁木みのり】
◾️「赤ちゃん扱い」は「母性の暴走」か?
2023年7月26日、「はてな匿名ダイアリー」にこんな文章が投稿され、ネット上で話題になった。タイトルは「赤ちゃん扱いしてくるファン辛い本当に」。投稿者は自称eスポーツ選手で、自身を「赤ちゃん扱い」するファンへの嫌悪感を切々とつづっている。
(以下引用)
「うちの増田くん(記者注:投稿者の仮名)が〜」とかほんと何…?
俺がいいプレイしたら「えらい」って何なの?
俺がたまにするミスに対して「また○○してー!もー!」とかさ、ほんとにファンなの??ってなる
(2023年8月6日最終確認)
試合を見て評価している分暴言を吐くファンやアンチのほうがまし、欲望をごまかしていない分BL的消費をされるほうがましとまで書いてある。もちろんこれは投稿者一個人の感じ方であり、ファンがつく職業をしている人全ての総意というわけではないが、2022年11月に引退した元VTuberのアクシア・クローネも「母親面」をやめてくれとファンに訴えていた(こちらは本人の活動態度にも問題があったようだが)。見ず知らずのファンからまるで我が子のように可愛がられることに嫌悪感を抱いている人は少なからずいるのだろう。
27日のX(旧Twitter)トレンドには「赤ちゃん扱い」が上位ランクインし、さまざまなジャンルのオタクたちが論争を繰り広げていた。「母性の暴走だ」という意見もあれば、「赤ちゃん扱いに限らず全てのオタクはキモい」という断罪も見られた。
私はいちアイドルオタクとして、こういった断罪的結論は正しいことを言っているように見えて、単なる思考停止ではないかと考えている。オタクはなぜ「キモい」と思われることをしてしまうのか、なぜ暴走してしまうのか、その根本を解剖しなければ、オタクを抑圧しようとする意見と「キモいオタク」との二項対立が続くばかりだ。
まず「全てのオタクはキモい」については今すぐ反論ができる。たとえばeスポーツのオタクで、競技そのものの知識が豊富で試合を見ながら熱くなる人がいるとしよう。その人はeスポーツに興味のない人から見ればキモいかもしれないが、はてな匿名ダイアリーの投稿者も言っている通り、選手を選手として見て応援しているので業界にとってはありがたいファンだ。ある立場から見て「キモい」存在でも、「キモい」というだけで必ずしも断罪の対象になるわけではない。キモいと思う人は単にその業界に関わらなければいい。
一方はてな匿名ダイアリーの件では、選手側がファンに「キモい」という思いを抱いている。同じ「オタクのキモさ」でも、競技自体のオタクの場合とは明らかに異質だ。
では、これは「母性の暴走」なのだろうか? 全く無関係と言い切ることはできないが、母性のみに全ての原因を求めようとするのは難しいのではないだろうか。こう考えるのは、私が子どもの頃から長らくジャニーズのオタクをやってきた経験に基づく。今でこそ私も成人したが、中学生、下手したら小学生の少女たちが、当時30歳前後だった嵐や関ジャニ∞、V6などのメンバーを「可愛い」と言うのを何度も見てきた。確かに母性の芽生えという側面もあるだろう。しかし、それだけで全てを語るには、「ローティーンの少女がおじさんを可愛がる」という構図はあまりに倒錯してはいないだろうか。
数々のオタクたちを見ていると、いわゆる「推し」やアイドル扱い(職業がアイドルでなくとも)は「可愛い」と切り離せないように思える。ファンの感情が「かっこいい」「憧れ」だけならば、スターやロールモデルなど、アイドル・推しとはまた違った存在になるだろう。アイドル・推し扱いは、エスカレートすれば「赤ちゃん扱い」になるような、自分よりも小さく可愛い存在として愛でる感情がいつもはらまれている。