社会から受けるコントロール【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第8回
森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第8回
森羅万象をよく観察し、深く思考する。そこに新しい気づきを得たとき、日々の生活はより面白くなる――。森博嗣先生の新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」。人生を豊かにする思考のツール&メソッドがここにあります。 ✴︎BEST TIMES連載(2022.4〜2023.9)森博嗣『静かに生きて考える』が書籍化(未公開原稿含む)。1月17日に発売。
第8回 社会から受けるコントロール
【毎日が平日という生活】
この原稿は、公開より1カ月以上早く書いているから、まだクリスマスもだいぶさき。さて、2024年が始まるわけだが、閏年だから、もしかしてどこかでオリンピックがあるのだろうか(興味の対象外で、単に書いてみただけ)。「どんな年にしたいですか?」なんてインタヴューされることがあるけれど、毎年どんな年にしよう、と決めてかかる人がいるのは普通なのだろうか。「あなたは、毎年どんな年にしたいかを考える人ですか?」という質問かアンケートをしてもらいたい。それとも、「昨年はどんな年にしたかったですか?」でも良い。まずは、その計画が実行され、そのとおりになったかどうかの評価が先決ではないだろうか?
僕の年末年始は、工作に没頭するか、あるいは仕事に没頭するかのどちらかだった。世間が静かになるし、仕事場も静かになるから、コンディションとして最適。過去を振り返ると、だいたい何を作ったかが思い出せる。たとえば、博士論文を書いたのも年末年始だったし、あの模型を作ったのもそうだった、などとぽつぽつと記憶が蘇る。しかし、この頃は毎晩10時にはベッドにいるので、年越しは夢の中で迎えている。
僕は、成人してから炬燵というものに入ったことがない。それからミカンも何十年も食べていない。奥様(あえて敬称)の部屋には炬燵がある。彼女は夏でもそれを使っている。また、きっとミカンも召し上がっていることだろう。僕は、もう40年以上、初詣には行かないし、神社で賽銭を投げたこともない。おみくじというものを、これまで一度も引いたことがない。どうして、あのようなものに金を使うのか理解できない。もったいないことだな、というのが素直な感想である。
普段でも、平日と週末の時間の過ごし方は同じ。当然ながら、大晦日も正月も、ついでにゴールデンウィークもお盆も、特に生活パターンに変化はない。毎日がコンスタントで、カレンダに支配されず、自分のペースで行動している。こういうことが可能なのは、他者との関わりがないからだ。自分以外の人間となにか行動を共にしようとすると、社会の決め事が自分の内側にも侵入してくる。若いときはしかたがなかったけれど、今はそういった関係が消失した。
もちろん、特別な計画を立てる場合はある。そういうときは、季節や天候との相談になる。人間が決めたカレンダに影響される人が多いのは、どうしてなのだろうか?
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✴︎森博嗣 新刊『静かに生きて考える』2024年1月17日発売✴︎
★森博嗣先生のBEST T!MES連載「静かに生きて考える」が書籍化され、2024年1月17日に発売決定。第1回〜第35回までの原稿(2022.4〜2023.9配信、現在非公開)に、新たに第36回〜第40回の非公開原稿が加わります。どうぞご期待ください!
世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?
森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。
〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。