「群衆に三輪車で突っ込んでいく少女とは」 ベトナムで私は考えた【西岡正樹】
ベトナムの北中部を110㏄の「原チャリ(原動機付自転車)」で3週間旅をしたのですが、その折にベトナムの中部、古都フエからおよそ120㎞南に位置するホイアンを訪ねました。このホイアンには16世紀、日本が御朱印船貿易を盛んに行っていた頃に日本人街があり、1000人程の日本人が住んでいたのです。今も日本人が建てた「日本橋」が残っています。しかし、私がホイアンに滞在した時には、運悪く(私にとって )「日本橋」の改修工事が行われていたので、その全貌を窺い知ることはできませんでした。嘗ての港湾の街ホイアンは、「日本橋」を含め多くの歴史的建造物が残り、季節を問わず多くの国内外の人々が訪れる「世界遺産」の街なのです。
そのホイアンに滞在していた時のことです。
ホイアン(ベトナムの中部世界遺産の街)は水郷とランタンの街としても有名です。夜うす暗くなると、川べりの家々や橋の欄干、そして水面に浮かぶ船(手漕ぎボートや観光船)に掛けられたランタン(提灯)が一斉に灯ります。
「その夜景は見る人を魅了するので是非行ってほしいです」
ハノイに住む教え子にも言われていたので、私はその夜景をとても楽しみにしていました。ホイアンに到着して次の日の夕方、薄暗くなりかけた頃、再度私は旧市街地を訪ねたのです。(ホイアンに到着した日の午後、当てもなく旧市街地を散策したので)
入口に御朱印船の模型が置かれているグエンティミンカイ通りは、すでにランタンが灯され、屋台や店の軒先、そして街路樹は光に満ちていました。私は、このグエンティミンカイ通りの突き当りに「日本橋」があるのは分かっていたので、店先に並んでいる土産物を横目で見ながら、歩くスピードを落とすことなく「日本橋」に向かいました。
また「日本橋」が改修工事をしていることも分かっていたので、ここも立ち止まることなく右折してアンホイ橋に向かおうとした、その時です。
私の目に光の塊が飛び込んできました。目を凝らすと今まで目にしたことのない煌びやかな光溢れる夜景が目の前に現れたのです。
「何、これ」
体の中から漏れ出た私の言葉です。
教え子が「是非行ってみてください」と言った景色はこれだったのか、私はしばらくその場から離れられることができませんでした。辺りを見渡すと川べりには、私と同じように立ち尽くす観光客や行き交う人で溢れています。その数はそれほど広くない旧市街地の許容量を越えているのではないかと思えるほどでした。私が訪ねた日は、人が多く集まる行事(ランタン祭り)もなく、さらに平日であるのにもかかわらず、アンホイ橋から人が零れ落ちそうなほどの、人また人です。あきれる程の人なのです。