財務事務次官よりもはるかに正確に、国家財政や貨幣について理解できるようになる方法【中野剛志】
矢野康治氏と言えば、現職の財務事務次官だった2021年に、『文藝春秋』(11月号)で「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』」という論文(「矢野論文」)を公表したことで、有名になった方です。
私は『楽しく読むだけでアタマがキレッキレになる奇跡の経済教室【大論争編】』において、矢野論文のどこが間違っているのかを、分かりやすく解説しました。これを読めば、誰でも、財務事務次官よりもはるかに正確に、国家財政や貨幣について理解できるようになります。
ところが、残念なことに、当の矢野氏は、この本を読まなかったようで、事務次官を退任後は、いっそう活発に、間違った財政論をあちこちで吹聴するようになっています。
最近でも、『WEDGE』(2024年6月)という雑誌で、その間違った財政論を惜しげもなく披露しました。
それは、次のような書き出しで始まります。
「日本の借金が急激かつ雪だるま式に膨らんだのは、平成の時代が始まってからである。高齢化による社会保障費などの歳出が増え続ける一方、税収はバブルが崩壊した1990年度を境に伸び悩み、その差はいわゆる「ワニの口」のように開いた。しかも、少子化により税の担い手が減り続けているから、まさしく、「開いた口が塞がらない」という構造赤字が続いている。その穴埋めは公債の発行で賄われてきた。
(中略)
もちろん、有事の財政出動は、あって然るべきだが、問題はその規模感である。さらに問題なのは、平時の財政規律までもが弛緩し、今や各種の世論調査で国民の6~8割が「こんな財政運営でよいのか」と不安視しているのに、政治家はバラマキ合戦に明け暮れて、タガが外れた状況が続いている。
元財務官僚として、反省の弁を述べなければならないが、日本ほど財政規律に無頓着な先進国は存在しない。」
このような相変わらずの認識を示した上で、矢野氏は、次のように述べています。
「これだけ財政規律が緩く、先進国でずば抜けて大きな借金を抱えているのに、日本では財政楽観論や減税論などがいまだに跋扈している。だが、そうした夢物語の中で、私が特に危惧するものとして「日本政府には資産があるから大丈夫」という議論、「基礎的財政収支(プライマリー・バランス)黒字化」の議論について、指摘したい。」
以降の議論は、「日本政府には資産があるから大丈夫」という議論に対する反論に充てられていますが、矢野氏の根本的な考え違いを指摘するには、ここまでの議論で十分です。