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どうなれば成功なのか?【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第26回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第26回


森羅万象をよく観察し、深く思考する。新しい気づきを得たとき、日々の生活はより面白くなる――。森博嗣先生の新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」。人生を豊かにする思考のツール&メソッドがここにあります。 ✴︎BEST TIMES連載(2022.4〜2023.9)森博嗣『静かに生きて考える』が書籍化(未公開原稿含む)。絶賛発売中!


 

 

第26回 どうなれば成功なのか?

 

【成功は競争から生まれる?】

 

 「上手くいった」と思える瞬間が、日々の生活でも、また人生においても、ときどき訪れる。嬉しくて、「やった!」と叫びたくなる。このような体験が、その人の生きる喜びを形成するようにも観察できる。

 では、この「やった!」とは、いったいどういう状態なのだろうか? もっと簡単にいうと、「成功とは何か?」という疑問である。

 たとえば、ある人は勝負に勝ったときに、自分は成功した、と感じるだろう。またある人は夢が実現したとき、なんらかの利益を得たときに、「成功」を手にしたと考える。

 誰にでも成功はあるし、この成功の大きさや回数によって、成功者とそうでない人に分かれていくようにも見える。多くの場合、成功すると社会的地位が上がり、金持ちになるから、人から羨ましがられ、自分の好きなことができる、とイメージされる。しかし、同じ社会に生まれてきたのに、一部の成功者だけが幸せになるなんて、社会の仕組みが間違っている証拠だ、と考えてしまう人も多いだろう。

 ただ、少し想像してみたらわかることだが、社会の仕組みを変えても、成功者が入れ替わるだけで、やはり一部の人だけが成功する状況は変わらないだろう。たとえば、スポーツのルールを変更すれば、勝てる人が入れ替わるが、やはり、勝てない大勢の人たちがいるはずだ。この理由は単純で、成功者が一部なのは、一部だけに訪れる境遇が「成功」と呼ばれているためだ。99%の人たちが勝ち、1%の人が負けるようなギャンブルは存在しない。そんなルールにしたら、勝者が得る利益が100分の1になってしまい、満足が得られない。それでは「成功」といえなくなる。

 では、このような「競争」という操作でしか、人は「成功」を獲得できないのだろうか? もしそうならば、成功は多数の失敗から搾取する行為といえる。客観的に見て、倫理的とはいえないし、心が痛む人も多いことと思う。

 一般に、勝ち負けを競う行為は、それが仕事だということで処理される。仕事とは商売であり、生産して対価を得る活動だが、そこでは多かれ少なかれ、他者との競争に巻き込まれる。仕事でなくても、社会の中で良い立場を築くためには、競争に勝たなければならない。だから、勝つことが成功だ、という価値観がそこから生まれる。これは、スポーツなどでも顕著だ。

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 〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

 

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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