柏木陽介の未来日記①-2 ワールドカップ出場
「代表のチャンス」
前回の続き。
イエメン戦、先発出場を果たしたもののその後は、岡田監督からふたたび声を掛けられることはなくて、一度目のチャンスは早々に消えてしまった。
南アフリカワールドカップの日本代表の快進撃を横目に、自分自身もあの場所でプレーしたいという思いは募っていった。
ふたたび代表入りのチャンスが訪れたのは、イエメン戦からちょうど1年後のこと。2012年1月。ザッケローニ監督に代わったアジアカップのメンバーに選ばれたのだ。
ご存知のとおり、チームはアジアの頂点に立ち最高の結果を残すことができた。けれど、個人的にはグループリーグ3戦目のサウジアラビア戦しか出場できず、チームの優勝にほとんど貢献できなかった。
その後もザッケローニ監督にはちょくちょく呼んでもらっていたんだけど、なかなかインパクトを残せていなかった。
「次の代表戦がいつか分からない」
そんななか、9月からワールドカップアジア3次予選を迎えて、その初戦の北朝鮮戦でスタメンとしてピッチに立った。あの試合、正直、自分の出来は悪いとは思わなかったけれど…60分に交代を告げられた。
ザッケローニ監督いわく「動きすぎ」。
急造チームということもあって、有機的な動きができていなかったのか。僕自身のモチベーションが高かっただけに少し“空回り”していたのかもしれない。
僕の代わりに出場したのがキヨ(清武弘嗣)。キヨも監督から「グチャグチャになっている」と言われたみたいで、試合後、ふたりで「俺ら、終わったな」とへこんでいたら……4日後のウズベキスタン戦で、キヨは途中出場でピッチに立ってそのまま代表に定着。
かたや僕はスタメンから外されてそのままフェードアウト。自分自身の情けなさに、最悪に落ち込んだ。
あれ以降、次の代表の試合がいつあるのかすら分からないような状態になっていた。
「もう選ばれないだろう」って。
もしかしたら意識的に避けていたのかもしれない。
それは、裏を返せば、そのくらい代表っていうものの存在が大きかったんだよね。自分の中でね。
代表に呼ばれなくなるのが当たり前になると、なんか心の中がポッカリと空いている感じがしていた。モチベーションがどうこうではなくて、ただ日々のサッカーを一生懸命頑張っているだけっていう感じで……。
今年はレッズも調子が良くて、なんとか優勝したいって、そこだけを考えていたつもりだけど、やっぱりどこか気が抜けていたのかもしれない。
「1本のメール」
そんな日々が続いた今年の7月。1本のメールが送られてきた。
「お前は何をやっとんねん!!」
送り主はゴリ(森山佳郎/現U-15日本代表コーチ)さんだった。
広島ユース時代の監督で、僕にとって大事な恩師のひとり。
普段はそんなにメールしてくるわけでもないのに……内容は怒っていた。
事の発端はSNSの僕の投稿。
「食べ過ぎた! なんかちゃんとしよう」
というような内容をSNSにアップしたところ、それを見たらしいゴリさんからのメールだったのだ。
メールはこんなふうに続いていた。
「一度のサッカー人生、全力でやってみろよ! 俺はお前が絶対代表の中心になれる選手だと思っているから、そうなってくれ!」
自分の中でゴリさんは絶対的な存在だから、言葉の重みが違った。ガツンと頭を叩かれた気分だった。
偶然にもちょうど同じ時期、もうひとりの恩師である小学校時代の監督からも連絡が来た。
「あまりうまくいかない時は無理しないでサッカーを楽しみなさい」
そう言ってくれた。
7月の東アジア選手権のメンバー発表に自分の名前がなくて、心の中で「もうブラジル・ワールドカップは終わったな」と思ってしまっていた。なにを目標にやっているのか分からなくて、自暴自棄になっていたのかもしれない。
そんな自分を察してか、周りの人が気遣ってくれた。
「行動を変える」
この言葉との出会いは、自分と向き合うことを促していったように思う。そうして、少しずつではあるけれど行動を変えていった。
それまでも大量に飲むことはしていなかったけれど、晩酌程度に2,3杯飲んでいたお酒もノンアルコールに変えたり、控えるようにした。
いままで嫌いであまり取り込んだことがなかった筋トレやストレッチをするようにしたり。
本なんて全く読まなかったのに、ユージ(中澤佑二/横浜F・マリノス)さんの書いた本『自分を動かす言葉』を読んでみた。
ピッチ上でも、ひとつのトラップでも集中してトラップして、いままで以上に一生懸命走った。
これはまだ継続中で、そういうところから少しずつ変えていきたいと思っている。
みんなにお前は絶対に続かへんって言われてるけど……続けてやるよ(笑)。
目標、向上心、自信。
やっぱり、この3つがサッカー選手にとってどれだけ大事であるか、それを最近すごく感じている。
現在25歳。気付くのが遅いかもしれない。
だけど、たとえ遅かったとしても、自分が“変わる”ことが恥ずかしいことだとも、悪いことだとも思わない。やらずに後悔するより、やって後悔した方がいい。そういう考え方になってきた。
それにやっぱり、ワールドカップに出場するという夢は、サッカー選手である以上、捨てられないから。
未来の日記に「ワールドカップに出場した」って書けるように、ね。
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