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Scene.11 小さくてもデッカイぜ!

高円寺文庫センター物語⑪

本屋の朝は、出版輸送さんが搬入してくれた本や雑誌を荷解き検品することから始まる。

97年7月2日、エアコンを入れても店内はまだ暑い中での作業に追われていた。

そんな開店前なのに、飛び込んできたお客さんに週刊誌『FOCUS』を入荷分みな売ってしまった。

長い一日となる、「フォーカス酒鬼薔薇事件」の幕開けだった。

今年2015年3月、川崎市で中学1年生の上村遼太くんが少年3人によって惨殺されたのは記憶に新しい悲しくてやるせない事件だった。

事件が報道されるや、ツイッターやLINEを駆使して該当者の顔や自宅と家族までが写真で世間に晒されることになった。いまやSNSによって、多くの未成年が「被疑者」を断罪したつもりになる。それが、当たり前のように・・・・

そんな行為の原点だったのが、神戸連続児童殺傷事件。酒鬼薔薇聖斗事件とも言われる、児童5名が殺傷される事件だった。

1997年5月27日朝、神戸市須磨区の中学校正門に犯行声明のような「酒鬼薔薇聖斗」の記名が見えるように耳まで切り裂かれくわえさせられた子供の頭部が置かれていた。

同年6月28日に容疑者が逮捕されるまで、犯行声明文などから犯人は高学歴の30代前半でガッチリ体型と識者は推測し報道は過熱した。

ところが警察が逮捕したのは、14歳の中学生!

あまりに猟奇的な少年犯罪から、それこそこの国が、ガラガラっと音を立てて変わったのではないかと思える象徴的な事件となった。

世に出た少年、いまや32歳。当時の法務省による少年の更生プログラムの失敗は、映画『時計じかけのオレンジ』が想起されてならない。

この段、蔑ろにはできないと解説を挿入するために資料を読んで何度、気分も気持ちも悪くなったことか!

直接的な銃器による殺傷の20世紀から、心的現象まで滅殺する21世紀になったのかと震撼させられる事件だった・・・・

『FOCUS』は、少年の中学のクラス集合写真を掲載していた。

 

アタマの中には、ガンズ&ローゼズ「Welcome to the Jungle」が流れる。

Scene.11 小さくてもデッカイぜ!

 

「ヤバい、配達分まで売っちゃったか。内山くん、ひとっ走り神田村で探してきて! 社長には報告しておくし、配達先にはお詫びをしに行くから」

「店長、ごめんなさい」

「Don‘t  worry ベイベ! 

気にしなくていいよ。失敗は誰にでもあるから、さ! 次に行こう」

そんなところに「ちーす、店長の眼が吊り上がっているじゃないっすか」

っと、肩の力が抜けきった出版社の石川ちゃんがやって来た。

お蔭で内心、狼狽していたところでわれを取り戻す。

ことの顛末を話せば、彼からは「有力書店のいくつかが、販売自粛したそうっすよ」

「そうなの! だから、開店前に飛び込んで来ての買占めだったのか」

「売っちゃうすか!」

「売る! だって、本屋が販売自主規制っておかしくない? 出版の自由・言論と表現の自由を販売店が封殺するってどうなのよ?!」

「いいっすねぇ。さすがに闘士は頑張っちゃうすね」

「店長、これだけ買えたばい! 午前中に、神田村に走って正解やったね」

神田村でかき集めた30部だったか50部だったか、配達分を抜いて週刊誌台にドン!

『お客様へ』と、先の話の内容を中心に「仕入れて販売するのが本屋の努め、購入の是非はお客様にご判断をいただきます」的な貼り紙もバン!

小学生を5人も殺傷し、犯行声明まで出した猟奇的な事件。好奇心だけで買うお客さんもいるだろうが、マスコミ関係やライターさんには必要な資料になるかも知れない。

いや、購買動機など問題ではない。自由な出版の最前線にいる本屋が、流通の流れを止めていいわけがないぜ!

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のがわ かずお

1951年 東京生まれ。書泉を経て、高円寺文庫センター店長。その後、出版社のアートン・ゴマブックス・亜紀書房顧問。本屋B&B、西日本出版社などにかかわる。 温泉とプラモデルと映画を、こよなく愛する妖怪マニア。共著『現代子育て考5.男の子育て』(現代書館)、『独断批評』(第三書館)。


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