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Scene.31 なんてったって、本屋!

高円寺文庫センター物語㉛

「殿! テレビ、テレビ! 観にいらっしゃいよ!」

文庫センターの社食となっている、お向かいのハンバーグ屋『ニューバーグ』。開店前はドアは開けていても、まだカーテンを閉めている。

そのカーテン越しに、ママさんが大声で呼ぶなんて何事かと思った10時45分過ぎ。

「わ! 

なんだこれ、映画じゃないよね?!」

マスターも立ち尽くして観ているテレビには、ニューヨークのワールドトレードセンターのツインビルに、旅客機が次々と突っ込んで行く映像が繰り返し映し出されていた。

ただならぬ気配を察したのか、りえ蔵と内山くんもやって来て言葉を失って立ち尽くしている。

アメリカ国防総省・ペンタゴンまでが標的になった、9・11のテロ。いま眼前に、テレビ中継されていたのである。

ボクらにしてみたらROCKの聖地、アメリカでの驚くべき大事件。りえ蔵は、いつかアメリカに住みたいと言っていた。

ボクの幼少期はアメリカン・テレビドラマにもどっぷり浸かって、戦後の占領政策に洗脳されてきた。映画『十二人の怒れる男』では、一人だけ無罪を主張する陪審員が大勢に流されず討論の末に無罪評決を得るという、議論と自立の民主主義を描いて教えられることが多かった。

しかし独善的に世界の警察官を任じても、かの国の意にそぐわない国々からは米帝打倒 って、そりゃそうだ。逆らえば、世界一の軍事力で大規模テロを加えてきた歴史!

その仕返しが、テレビで全世界に中継されていた。愛憎半ばする大事件に、感慨深いものがあるが確実に世界は変わると茫然としていた。

しばらくは、この手の本の出版が相次ぐだろうが高円寺は反応するかな?! 

奇しくも前日、『B-29 日本爆撃30回の実録』という本を読み終えていた。ハイジャックされた旅客機がB-29に見える幻想に捕らわれていたのは戦記物を読み過ぎたせいか。

なんにしても、暴力は暴力しか生まない。

 

アタマの中には、チャック・ベリーの「Johnny B.Goode」が流れる。

Scene.31 なんてったって、本屋!

 

今日は「やまだないとサイン会」。いささかの不安に捕らわれていた。女性がメインのイベントで、お一人だけでというのは初めてのことなのである。

当時のサブカル界は、ほとんど男子で引っ張られていたんだろうなと思うことからの懸念。

これまでの女性はといえば、カップリングでだった。わかぎえふさんに、中島らもさん。三善里沙子さんは、切通理作さんという具合だった。

女性漫画家といえば、思い出した!

西荻窪の本店勤務時代には、毎日のように通っていた喫茶店でさくらももこさんに会ったことがある。

小さな喫茶店で、マスターはお喋り好きなうえに世話焼きだから。

「こちら、漫画家のさくらももこさん。雑誌の『りぼん』で『ちびまる子ちゃん』の連載スタートしたばかりだから、よろしくね」

「『りぼん』は、売れていますからね。

漫画が成功して、キャラクターがグッズになったらいいですよね。頑張ってください!」

「ありがとうございます。

今日はお友達の、松苗あけみさんに会いにきたんです」

なんて、会話はいま考えると顔からファイアー! っていうか、つてを辿ってサイン会を文庫センターでして貰えば異色のイベントになったのに・・・・慚愧。

閑話休題。

やまだないとサイン会を終えて、恒例の著者さんとスタッフのレジ集合写真。さすがの人気は、やはりそこはかとないオーラを醸し出してる!

蓋を開けてみれば80人ものお客さんが来てくれたイベントになった!

しかも、南Q太さんや安野モヨコさん達お友達の漫画家仲間まで駆けつけてくれたから大変!

一人さわっちょが、頬をピンクに染めて舞い上がっていた。それは、ラピュタ阿佐ヶ谷の完成披露パーティー以来じゃないかな?!

その仲良しパワーは怒涛のように打ち上げの沖縄料理店『抱瓶』に、なだれ込んで行ったのであった。

やまだないとさんの執筆活動は旺盛で、イーストプレス・太田出版・祥伝社・飛鳥新社・竹書房・辰巳出版・河出書房等々から90年代は毎年複数点を上梓。その勢いのママの新刊『Yの思い出』だったから、集客の不安は恥じ入るばかりだった。

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のがわ かずお

1951年 東京生まれ。書泉を経て、高円寺文庫センター店長。その後、出版社のアートン・ゴマブックス・亜紀書房顧問。本屋B&B、西日本出版社などにかかわる。 温泉とプラモデルと映画を、こよなく愛する妖怪マニア。共著『現代子育て考5.男の子育て』(現代書館)、『独断批評』(第三書館)。


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