「どんな音楽を聴くんですか?」古市憲寿さんに聞く!(23)
消費者がアーティストに触れられる時代になった
「新しい」の価値が変わった音楽業界の未来
あんまり洗練されてないJ-POPというか……イオンモールとかで流れているような、流行曲が大好きなんですよ(笑)。J-POPは中学生の頃からよく聞いていて、好きなアーティストの新曲が出るのが、とにかく待ち遠しく感じていました。
今ほどインターネットも発達していなかったから、「ミュージックステーション」「HEY! HEY! HEY! MUSIC CHAMP」のような音楽番組や、雑誌・ラジオ・テレビCMなどで情報を追っていました。懐かしい思い出ですね。
今は「音楽CDが売れない時代」だと言われています。長年続いていた音楽番組も次々となくなっていきますし、CDショップも減っています。もはや、iMacにはCDドライブさえついていません(笑)。よく言われているように、CDは完全にグッズになりましたよね。
僕の子供時代は、ちょうど音楽市場の全盛期と言われる1990年代半ばと重なります。たとえば、小室哲哉プロデュースのアーティストのシングルCDって、だいたい一曲しか収録されていなくて、カップリングはその曲のリミックスとカラオケバージョン。リミックスって大抵は難解すぎてせいぜい一度聴いたら終わり。だから、実質一曲しか入ってないのと同じなんですよね。
20年前の音楽ファンは、たった一曲を買うためにわざわざ店頭まで行って、何の特典もついていないCDに1000円も払っていたんですよ。かつての消費者にとっては「CDを買う」くらいしかアーティストとの接点がなかったし、基本的にはそれでしか音楽を手に入れることができなかった。それが今や、Apple musicやAwaでは月額980円で無制限に曲が聴けるわけですよね。音楽のデフレ具合にはびっくりします。
しかも今はわざわざCDを買わなくても、YouTubeで映像を見たり、SNSの投稿をチェックしたり、アーティストの「最新」に触れる機会はたくさんありますよね。消費者にとっては、いい時代になったと言えると思いますよ。
20年前と今では、社会全体にとっての「新しいもの」の価値が一変してしまいました。ネットが発達した現代社会では、僕たちがどうあがいても消費しきれない量のコンテンツがあふれていて、今なお日々膨張し続けている。
「新しいもの」には困らないから、「新しい」だけでは差別化を図りにくい時代になっています。ただ、それでもレコード会社はスターを探しているし、そんなスターが生まれたらいいなとは思います。