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「海外に行くようになったきっかけは?」古市憲寿さんに聞く!(12)

就活を避けるためのモラトリアムで学んだこと

フィンランドの社会学者、トゥーッカ・トイボネンさんと共著『国家がよみがえるとき 持たざる国であるフィンランドが何度も再生できた理由』(マガジンハウス)を出版するなど、北欧への関心が高いイメージのある古市さんですが、最初から北欧が好きだったのでしょうか?

「レベルアップしなければいけない人生」から降りる

ノルウェーの育児政策についてまとめた論文は、東京大学の大学院入試でも一定の評価をうけたという。

 今でこそ出張や取材でしょっちゅう海外に行く機会はありますが、もともと僕はそんなに旅行好きではなかったんです。大学3年のころに留学で行ったノルウェーが、初めての海外だったんですよ。なぜノルウェーを選んだかと言うと、そこまで積極的な理由があったわけではなくて、なんかラクそうだなって思って(笑)。そもそも留学の動機も「就活を避けるためのモラトリアムを得たい」というものでしたしね。

 最初はノルウェーじゃなくて、アメリカに留学しようかなと考えていたんです。でもアメリカは授業もすごいタイトで、大変そうだったんですよね。あと、「アメリカ留学」っていうキャリアがつくと、就活で有利になっちゃうじゃないですか。そうすると、なんとなく「せっかくアメリカに留学したのに就活しないの?」みたいな空気になって、就活せざるを得ない状況になるような気がしたんですよね。
 そうやって「どんどん順当にキャリアをレベルアップさせていかなきゃいけない人生」って、なんかツラそうだなって思っちゃって。北欧なら、順当なキャリア路線から抜けられそうな気がしたんですよね。

 実際ノルウェーに行ってみたら、予想通り本当にヒマで(笑)。授業も週に3コマくらいで、予習復習もとくに必要ないんですよ。ただ大学にフラーッと行って話を聞いて、ちょっとしゃべるだけで授業が終わって、後は帰るだけ。留学前のガイダンスでは「授業の準備を含めて大変だ」って散々言い聞かされてましたけど、ノルウェーに限っては全部ウソでしたね(笑)。
 ヒマな時間を使って、よく旅行をするようになりました。ノルウェーはヨーロッパの端っこなんですけど、それでもヨーロッパ圏内って予想以上に旅行しやすいんですよ。ノルウェーからパリでも1時間、ロンドンでも2時間くらいで行けちゃいます。留学中にいろいろな国を回れた経験が、その後の海外旅行へのハードルを下げてくれましたね。

 ただ、せっかくノルウェーまで来てるんだから「ここで学ぶ意味のあることを吸収しよう」と考えて、社会保障や福祉関連のことは自分でよく調べていました。そこで勉強したことを活かして、大学の卒論では「ノルウェーの育児政策」についてまとめたんです。
 ノルウェーでは子どもが1歳になるまで、約80%の給料が支払われる育児休暇制度があって、保育園にも入りやすい。高校と大学も基本的に無償ですから、生まれてから社会に出るまでの教育を、ほぼすべて無償で受けることができます。労働力が少ない国であり、男女ともに働かないと回らない社会を前提としていたからこそ、こうした仕組みが生み出されたわけです。いま、日本もほぼ同じ状況になってきていますから、ノルウェーの政策から学べることは多いと思います。

 

明日の第十三回の質問は「Q13.世界中を飛び回っている印象がありますが、これまでどんな所を見てきましたか?」です!

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古市 憲寿

ふるいち のりとし

1985年東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。株式会社ぽえち代表取締役。朝日新聞信頼回復と再生のための委員会外部委員、内閣官房「クールジャパン推進委員」メンバーなどを務める。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書に『希望難民ご一行様』(光文社新書)、『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)、『だから日本はズレている』(新潮新書)などがある。

Twitter: @poe1985


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