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「日本のインバウンド市場は、これからどんなことが課題になるのでしょうか?」古市憲寿さんに聞く!(11)

クール・ジャパンは日本の押し付けでしかない

政府はこれまで、観光立国を推し進めるため「2020年までに訪日外国人客2000万人」を目標としてきました。この目標が2015年にほぼ達成されたことから、2020年の目標を3000万人に引き上げています。この数字を達成するために、いま日本に必要なこと、不足していることとは?

当たり前のことができていない日本

 2015年で、訪日外国人数は過去最高の1973万人を記録しました。しかし、それは決して「日本の観光業が大きく変わったから、インバウンドが増えた」という事実を示しているわけではありません。訪日外国人数が増えたのは、規制緩和のおかげでいろんな国にVISAなしで観光できるようになったこと、円安の影響で渡日しやすくなったことが、大きな要因だと思います。

 インバウンド市場を盛り上げるため、積極的にできることはたくさんあると思いますが、その前に日本は「外国人観光客にとっての不便さを取り除くこと」に真っ先に取り組んでいくべきです。
 日本では、他の国が観光対策として当たり前にやっていることや、常識的に考えればやるべきことに、十分な手が回っていないんですよね。
 たとえば、公共の交通機関やターミナルのFREE Wi-Fiの整備が不十分です。日本の通信業者と契約している人しか満足にネットを使えないんです。都営バスなどは頑張っていますが、一方で成田エクスプレスに簡単に使えるWi-Fiが整備されていないのはおかしいですよね。
 ほかにも、JR東海なんて専用のクレジットカードがないと、ネット経由で新幹線の予約が取れないんです。そんなの、絶対に海外からじゃ無理ですよね。そもそも、新幹線にはスーツケースを置く場所もないですし。こういった「国内にしか目線が向いていない」インフラは多いですよね。

 僕があったら便利だなと思うのは、外国人観光客向けの適切な観光ポータルサイトを作ること。
 たとえば韓国には、日本人・中国人向けの観光サイト『コネスト』があります。食、美容、歴史に至るまで、ガイドブックより詳しい情報が網羅されていて、直接ホテル、ツアー、ミュージカルの予約までできるサイトです。
 日本にも『Visit Japan』など、似たようなコンセプトのサイトはいくつかありますが、コネストの充実度に比べるとどうしても見劣りしてしまいますね。観光客を呼ぼうと考えると、つい多額のお金をかけた施策をイメージしてしまうかもしれません。でも何百億円もかけずとも、コネストのような「日本に来てから出るまでワンストップでこと足りるサイト」を作ったり、できることはたくさんあると思うんです。まあ行政が作るウェブサイトに期待はできるかと言われたら、今のところできないですけど。

 インバウンドの文脈では未だに「クール・ジャパン」って言葉が出てきますけど、あれって「海外から日本がどう見えるか」という視点が、圧倒的に欠けているんですよ。結局、日本が好きなモノを押し付けているばかりなんです。これから必要なことは、外国人観光客が求めている欲求を満たし、さらに一段上のサプライズを提供していくことでしょうね。

 

明日の第十二回の質問は「Q12.海外に行くようになったきっかけは?」です!

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古市 憲寿

ふるいち のりとし

1985年東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。株式会社ぽえち代表取締役。朝日新聞信頼回復と再生のための委員会外部委員、内閣官房「クールジャパン推進委員」メンバーなどを務める。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書に『希望難民ご一行様』(光文社新書)、『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)、『だから日本はズレている』(新潮新書)などがある。

Twitter: @poe1985


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