「最近の仕事で、印象に残っているものはなんですか?」古市憲寿さんに聞く!(10)
日本の未来を象徴する夕張市
「メロン熊」は本当によくできている
僕は今『新世代が解く!ニッポンのジレンマ』(NHK Eテレ)でMCを務めています。先日この番組の「ツーリズム」をテーマにした回の収録のついでに、北海道・夕張に取材に行ったのですが、夕張という街は非常に興味深いですね。
夕張市は2007年に財政破綻して以来、税金は上がるのに公共サービスは減らされていく一方で、住人は相当な苦境に立たされています。財政の余裕がないから、新しいダイオキシン対策基準を満たすゴミ処理施設さえ作ることができない。
じゃあどうしているかと言うと、ただただ処理場にゴミを積み上げ続けているんですよ。2013年には人口が1万人を割って、高齢化が進み、かつての繁華街はシャッター商店街のようになっている。その様子は、まさに日本の未来を象徴しているように感じました。
ちなみに僕がいま着ているTシャツは、夕張市のゆるキャラ「メロン熊」なんですけど、これってすごくよくできたマスコットなんですよ。広告代理店の企画などのオフィシャルなものではなくて、札幌出身で夕張にやってきた民間の方が個人的に生み出したキャラクターなんですけど、ゆるキャラって言ってるわりにはめちゃくちゃ怖いじゃないですか(笑)。
でも、ツッコミどころを用意することで、そこにコミュニケーションが生まれるんですよね。そのおかげか、メロン熊は全国で認知されるゆるキャラになってますからね。
実は、もともと夕張には「夕張夫妻」(負債と夫妻をかけたもの)というゆるキャラがいます。カンヌ国際広告祭でグランプリを受賞した大物なんですけど、地元では人気がないみたいで(笑)。夕張夫妻には財政破綻にかけて「金はなくても愛はある」というキャッチコピーがつけられ、つぎはぎのある服を着ていて……地元からしたら失礼な話ですよね。自治体として財政が破綻しているだけで、別に夕張市に住んでいる人たち全員が貧乏なわけではないし、つぎはぎの服を着ているわけでもない。
押しつけのおもてなし
東京を離れるときに切実に思うのですが……僕、普通の旅館があまり得意じゃないんです。友だちや家族など大人数で旅行するときはいいんですが、特に一人では旅館を選びたくないですね。
旅館って、勝手に部屋に中居さんが入ってきて、布団を敷いたりするじゃないですか。こんな言い方するのは申し訳ないけど、そういう日本式の“押しつけのおもてなし”が好きじゃないんですよね。だから、日本にもいろいろと滞在してみたいところはあるんですけど、旅館しかないようなエリアにはなかなか足が伸びないんです。かと言って、ビジネスホテルも好きじゃないので、地方都市は行っても日帰りになることが多いです。
この前は札幌に泊まったんですけど、札幌って1泊1~2万円のビジネスホテルはたくさんある一方で、リッツ・カールトンクラスのホテルが少ないんです。
これは札幌に限った話ではないようです。デービッド・アトキンソンさんの『新・観光立国論』(東洋経済新報社)でも書かれていましたけど、日本ではラグジュアリーホテルが少ないんです。これは、今後日本への外国人観光客が増えていく中で、富裕層を呼び込む際の課題になってくると思います。