古市憲寿さん、人生の転機となった「選抜漏れ」
小熊英二さんが作ってくれた「社会学」との出会い
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デザインの世界に進んでいたかもしれない
初めて社会学に興味を持ち始めたのは、大学生になってからです。ただ大学の専攻を選ぶときは社会学なんてまったく意識しませんでした。
実際、慶應義塾大学の環境情報学部に入ってからも、2年生まではデザインや建築関係の授業ばかり受講していたくらいです。その頃はAdobeのイラストレーターというソフトばっかり使っていましたね。課題でよく建築模型を作成していました。
転機は2年生の後期 です。
コンピューターグラフィックの授業を取ろうとしたのですが、履修選抜から漏れてしまったんです。そのとき代わりに受講したのが、同じ時間帯に開講されていた小熊英二さんの『近代史』の講義。
小熊さんは『<民主>と<愛国>――戦後日本のナショナリズムと公共性』『1968』(どちらも新曜社)といった――
少人数制の演習ではなく、大教室で大人数向けに行われる講義だったので、 正直コマを埋めるようなつもりでの履修でした。
それが実際に授業を受けてみると、小熊さんの切り口が刺激的だった。
高校までで学んだはずの歴史も社会学を通すとこのように見えるのかと、とても新鮮だったんです。この頃からですね。社会学に興味を持ち出したのは。
もしあの時、コンピューターグラフィックの授業を履修していたら、今ごろはまったく違った人生を歩んでいたかもしれません。
ただ、所属学部での社会学関連の授業はそれほど多くはなかったので、自分で社会学関連の本を読んだり、関心領域の似ている友達と話したりすることくらいしかしていませんでした。小熊さんも授業こそは受けていましたが、ゼミには入りませんでしたし。
僕が通っていた慶應大学の環境情報学部は、神奈川県の藤沢にキャンパスがあります。当時は埼玉にある実家から通っていたので、片道2時間半くらいかかっていたんですよ(笑)。
ただ、このバカみたいに長い通学時間のおかげと言うべきか、電車の中ではたくさんの本を読みました。いまでも印象深いのは、土井隆義さんの『非行少年の消滅―個性神話と少年犯罪』という本です。