自民党の裏の裏まで知り尽くした田原総一朗にしか書けない自民党論
ベスト新書15周年フェアの1冊、『変貌する自民党の正体』(田原総一朗著)が6月9日発売。
主流派、非主流派が激論を交わした自民党はもはやない
議論なき政党はいったいどこへ向かうのか!?
自民党とは、いわば総合デパートのような政党であった。
保守もいれば、リベラルもいる。タカ派がいれば、ハト派もいる。党内には言論の自由があり、民主的な雰囲気があった。
かつての自民党は党内で徹底的な議論が行なわれ、根本的な矛盾が国会審議にまで持ち越されることなどなかった。たとえば、安保関連法案が憲法違反かどうか、どの部分が憲法に抵触するのかといった問題は、自民党内で議論が尽くされていたはずである。
なぜなら、自民党には主流派に激しく論争を挑む反主流派や非主流派の議員がいたからだ。自民党には自由に自分の意見を表明して討論できる柔軟な構造があり、その意味では開かれた政党であった。だからこそ、長期間にわたって国民の支持を得て、政権を維持してきたのである。
政治を取材するジャーナリストたちは、社会党や共産党といった野党になどほとんど関心がなかった。自民党内の主流派と反主流派、非主流派の争いの方が格段に面白く、取材のエネルギーと神経のほとんどを注いだものである。
総裁選にしても、かつての自民党なら複数のリーダーが出馬して、それぞれの政策を掲げて論争するのが通常のパターンだった。角福(田中角栄と福田赳夫)戦争や三角大福中(三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘)の抗争などと言われ、主流派と反主流派、非主流派の間で、総裁の座をめぐる激しい攻防が展開された。
ところが、自民党は大きく変わってしまった。
激しい論争が消え、反主流派や非主流派の存在感が全くなくなってしまったのだ。不自由非民主党になったと言ってもよい。政治が面白くないのは、そのせいである。
安保関連法案にしても、批判したのは元副総裁の山崎拓や、元幹事長の野中広務や古賀誠ら自民党OBばかりであった。現役の自民党議員は執行部の顔色を覗うばかりで、自分の意見を表明するのを恐がっているかのように見えた。安倍首相と異なる意見を述べることが、党への「造反」であるという捉え方すらされているようだ。
これは尋常ではない。いろいろな意見が戦わされることによって法案が確かなものになっていくのであり、党内の言論の自由や民主主義が欠如すると、欠陥のある法案が国会に提出されてしまうことになりかねない。
15年9月に行なわれるはずだった自民党総裁選では、対立候補の出馬がないままに安倍首相が無投票で総裁に再選された。
総裁派閥である細田派をはじめ、額賀派、岸田派、二階派など党内の全派閥がまるで忠誠心を競うように安倍首相支持を打ち出した。
たとえば、岸田文雄外相が率いている岸田派、つまり宏池会は池田勇人時代に立ち上げられ、大平正芳、鈴木善幸、宮澤喜一ら首相を輩出した保守本流であり、平和憲法を守るハト派であって、安倍政権とは体質が異なるはずである。
こうしたなかで、自民党の柔軟さを示そうと前総務会長の野田聖子が勇気を持って出馬を決意したが、党内の切り崩しにあって20人の推薦人を集めることができず、出馬を断念せざるをえなかった。(本文より)
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ではなぜ自民党は変わってしまったのか?
本書では、田中政権以降のすべての総理大臣に取材を行うなど、自民党の裏の裏まで知り尽くしたジャーナリスト・田原総一朗が、自民党結党以来の歴史をたどりながらその疑問を徹底追及する。
序章 自民党は劣化したのか