偽装天国・日本でオリーブオイルが危ない
真っ当で体に良い油を選ぶには
■オリーブオイルの大消費国・日本
今年5月、IOC(インターナショナル・オリーブ・カウンシル)が唯一主催するオリーブオイルのコンペティション「マリオ・ソリナス・クオリティー・アワード」授賞式が東京で行なわれた。
IOCはスペインのマドリッドに本部をおく政府間機関であり、オリーブ業界における唯一の世界的な機関として、加盟国と協議をしながら、オリーブ業界発展のための政策作りを行っている。
現在のIOCの加盟国は地中海沿岸国や南アメリカの一部の国などが中心で(それでも世界のオリーブ生産量の97%を占める生産国を含んでいる)、日本は未加盟だ。
だが、IOCは今後は日本をはじめ、消費国も加盟していけるようにするという方針を打ち出しており、2017年には、生産国だけでなく、消費国もIOCに加盟できる見通しである。
「マリオ・ソリナス・クオリティー・アワード」授賞式が、アジアで初めて東京で開かれたのも、オリーブの消費国としての日本の存在が大きくなっているからにほかならない。
■日本だけで販売できる「エキストラバージン・オリーブオイル」
いまや、日本におけるオリーブオイルの市場規模は320億円以上となっている。消費量別にみると、キャノーラ油についで2位だという。驚くことにごま油よりも多いのだ。
人気の理由のひとつは、その健康効果だろう。
オリーブオイルの優れた効果はすでに日本でも広く知られている。オレイン酸や活性酸素を除去するポリフェノールを豊富に含むオリーブオイルは、まさに美味と健康を両立させる強い味方だ。
だが、それはあくまでも「真っ当なオリーブオイルであったなら」の話だ。
日本のスーパーで売られているオリーブオイルのほとんどは「エキストラバージン・オリーブオイル」を名乗っているものの、実は日本で流通している「エキストラバージン・オリーブオイル」は、必ずしも国際基準を満たしていない。
IOC加盟国が生産するオリーブオイルで「エキストラバージン」の名を冠するためには、風味、成分について、それぞれの検査をヘなくてはならないが、IOC未加盟の日本では、そのような細かな基準は適用されない。
ただJAS規格のなかの「食用オリーブ油」の基準さえ満たしていればよく、しかもJAS規格で定められた「食用オリーブ油」には、「エキストラバージン」といったグレードに関わる基準は存在しない。
つまり、日本で販売されている「エキストラバージン・オリーブオイル」は、単なる商品名なのだ。
実際、今年の2月にはイタリア警察が「硫酸銅を塗ったオリーブ」8万5000トンと産地偽装したオリーブオイル7000トンを押収する事件があった。この件で逮捕された容疑者たちが製造した「偽オリーブオイル」は日本にも輸出・販売されていた。
■IOC加盟で日本からオリーブオイルがなくなる!?
日本がIOCに加盟することになれば、日本でも国際基準を満たした「本物の」オリーブオイルがおもに流通することになる。消費者にとっては喜ばしいことと言えそうだが、不安もある。
というのも、そもそもエキストラバージン・オリーブオイルは、オリーブオイル全体のなかでもとりわけ優れたごく一部が名乗れる品質。言わば高級品だ。1リットル数百円で買える代物ではないのだ。とすれば、日本のIOC加盟によって、食卓からエキストラバージン・オリーブオイルは今ほど身近なものではなくなっていくかもしれない。
蛇足だが、筆者も、先述した「マリオ・ソリナス・クオリティー・アワード」授賞式の際に、受賞したエキストラバージン・オリーブオイルの数々を試飲する機会に恵まれたが、これまで口にしてきたエキストラバージン・オリーブオイルとの風味の違いに驚いた。
草っぽい香りは芳醇で、風味は濃厚。それでありながら、口当たりはスッキリしていた。これならエキストラバージン・オリーブオイルを飲めるというのも、頷ける話だ。
■「真っ当な」オリーブオイルの選び方
さて、せっかく健康効果に期待してオリーブオイルを愛用しても、偽オリーブオイルでは効果がない場合もある。
では、どうすればいいのか。
ONAOOオリーブオイルテイスターであり、AISO/OSAJオリーブオイルソムリエである板橋律子さんに話をうかがった。
板橋さんは「これは絶対ではありません。あくまでも目安としてご理解ください」と前置きしたうえで、高品質のエキストラバージン・オリーブオイルを選ぶための目安として、下記の項目を挙げた。
① 瓶や外観に光を遮る工夫がなされているもの
オリーブオイルは光や熱にとても弱いので、保管するうえで、黒や緑など暗色の遮光瓶に入っているものが良いでしょう。透明瓶でも外箱や保護フィルムがあり、遮光への配慮がなされていれば良いと思います。
② 輸入品の場合、「リーファー(温度管理)コンテナ輸送品」と書いてあるもの
コンテナ船による長期間の輸送時に、高温にさらされていない証となります。リーファー便の利用は義務ではありませんが、だからこそ品質に対する知識や配慮がある商品かどうかをひと目で判断できると思います。
③ EU法に定められた原産地名認定・保護のマーク(PDO、PGI)が付いているもの
EU内生産品の場合、このPDO(原産地名称保護:Protected designation of origin)やPGI(地理的表示保護:Protected geographical indication)の登録地名は、品質や風味をイメージする際の一助になります。
④ 開示されている商品情報の量が多いもの
それは生産プロセスと情報管理が徹底されていて、商品に自信がある証です。例えば、オリーブの品種や混合比率、栽培地、採油日、分析値、ロット(商品管理コード)No.などです。
⑤ 知識が豊富で信頼できる生産者、輸入者、小売店が取り扱っているもの
上記を参考にして選んだうえで、「できれば1か月くらいで使いきれそうな量の商品を買いましょう」と板橋さん。
数多くの「偽装」が覆う昨今。さすがにマンションの基礎の杭や自動車の燃費性能について、一般消費者が商品を選ぶ段階で見分けるのは難しい。
だが、日常的に購入する食品については、せめて選ぶ基準を知っておきたい。