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英国の国民投票から考える民主主義の課題

アメリカ「建国の父」たちは民主政の何を恐れたか

民主政において、多数派による圧政をいかに防ぐか

■後悔しているイギリス人

 Bregret(ブリグレット)――国民投票によってEUからの離脱を決めたイギリス(Britain)国民の間に広がる「後悔(regret)」の感情を表した造語である。投票後に起きた政治、経済の混乱や、離脱派による公約撤回などの様子を見て、EU離脱に投票した人たちも「まさかこんなことが起きるとは思わなかった」と感じ、国民投票のやり直しを求める請願も多く届いているという。

 国民投票は、民意を直接表明できる点で極めて民主的な手法である。だが、直接的である分「民主主義の欠陥」が強く出やすい制度でもあることが、今回の騒動を通じて明示されたのかもしれない。

 アメリカ独立革命とそれに続く合衆国の建国は、近代の民主主義に大きな影響を与えることとなる。しかし、憲法制定会議に集まった「建国の父」たちの多くが共有していたのは、「民主主義の欠陥」を是正し、民主主義の行き過ぎをいかに抑制するかという意識だった。
 憲法批准を世論に訴えるために発表された論文集『ザ・フェデラリスト』の共著者の一人であるジェイムズ・マディソン(1751~1836)は、合衆国を民主政に基づいた連邦にするという以上に、共和政に基づいた「共和国」として創設していくことの重要性を論じている。

■間接民主政VS直接民主政

 共和国とは、一般的には君主制ではない体制を意味することが多いが、時代や地域によって意味合いが異なり一義的に説明するのが難しい概念である。だが、ラテン語の「公共のもの(レス・プブリカ)」を語源とすることから、どの時代や地域においても、私的な利益ではなく公共の利益の実現を目指す体制を意味していた点では共通している。

 マディソンにとって共和国とは、権力のすべてが直接的にせよ間接的にせよ人民から与えられ、政府が一部の特権階級ではなく社会の大多数に基礎を置いている国家のことであり、特に「代表という制度をもつ統治構造」のことを意味していた。これは一般的な意味で言うところの間接民主政のことである。マディソンは、この間接民主政としての共和政を直接民主政と対比させる。

 全市民の参加による直接民主政の弊害とは、マディソンによると、多数派による圧制が生じやすい点にあるという。直接民主政の下で多数者が一つの「派閥」を形成する時、その派閥は公共の利益や市民の権利を無視し、自分たちの利益の実現を優先するようになるだろう。その時、少数の党派や気に入らない個人を切り捨ててしまおうとする誘惑を抑えるものはない。

 一方、全市民の中から選ばれた少数の代表からなる共和政は、派閥による弊害を防ぐことができるとマディソンは言う。直接民主政の実施が不可能なほどに広大な領域と多くの人口を抱える連邦では、多くの代表候補の中からより賢明で優れた者を代表として選出しやすくなる。
 賢明な者たちは、私益や地域的な利益だけでなく、より広い視野から自国の真の利益を見分けられるだろう。世論は広い範囲の中から選ばれた少数の代表の手を経ることで洗練されたものとなっていくのだ。

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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