独占インタビュー・岡崎慎司
「優勝した瞬間、すべてのものが吹っ飛んでいった」
世界のフォワードとの差はどこにあるのか? 日本のエースストライカーがプレミアリーグで感じたフォーワードの姿。なぜ、プレミア優勝を果たしても「未到」なのか――。必見、独占インタビュー第二回。
一方、そのレスター・シティのレギュラーとしてチームの躍進を支えた岡崎慎司は、メディアの前で「悔しい」「怒り」という言葉を繰り返した。6月初旬に発売後、たちまち6万部を突破した、プレミア一年目を振り返った書籍『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)にはその心情の変遷が詳しいが、歴史的快挙の立役者となった一年を総括する書籍のタイトルが「未到」とは穏やかではない。
なにより、日本を代表するエースストライカー、親しみやすい雰囲気を身にまとい、泥臭いプレーを信条にチームの勝利を優先し献身的なプレーを見せる「典型的な日本人選手」として語られてきた彼はなぜ、一見そのイメージと相反するような言葉を繰り返したのか。
サッカー界にとっては「奇跡」として語られるレスター・シティの一年。しかし、われわれ日本人にとっては、日本を代表するストライカーが、これまで見せることのなかった「秘めた心のうち」を明かし、新たな日本人フォワード像へ突き進もうとする一年であったことを見逃してはならない。
7日間連続・独占インタビュー2日目、公開!
優勝が決まる試合、前半戦の気持ちは「チーン…」でした
――「悔しい」と語られた一年だったわけですが、では「優勝」の味を味わうことはできなかったのですか?
それが今シーズンの面白いところではあるんですけど、正直に言えば、優勝が決まるまでは「優勝が決まっても素直に喜べないだろうな」という思いだったんですね。話してきたとおり、悔しさがあったから。やっぱりフォワードとして5点は少ないし、いつも60分、70分で代えられることも悔しかった。「嬉しいだろうけど、心から喜ぶことはできないだろうな」という気持ちがあったわけです。
――では、実際に優勝決定の瞬間を迎えて本気で喜ぶことはできなかった。
いや、それがそんなことはどうでもよくなるくらい嬉しかったんですね(笑)。もう、それまで思っていた感情なんて忘れてしまうくらい嬉しくて、最高の瞬間でした。ツイッターに「我を失うくらい嬉しい」って書き込んだんですけど正しくは「我を忘れる」ですよね(笑)。興奮しすぎて、書き間違えたんです。「心から喜べないだろう」と思っていたものが、まさかの大興奮。ギャップがすごかったですね。
――とはいえ、昨シーズンの総括が「未到」「悔しい」だとすると、この嬉しさがまた失われる瞬間があるわけですか?
優勝した喜びを失うってことではないですけど、そうですね。
――なるほど。ではそれはのちほどうかがうことにして、優勝した瞬間はどこで過ごされたのですか?
ヴァーディの家ですね。その時2位だったトッテナムとチェルシーの試合をチームメイトで見たんです。
――それは、誰かが呼びかけたのですか?
トッテナムが引き分けるか負けるかで僕たちレスターの優勝が決まる状況だったので、ヴァーディの呼びかけでみんなが集まった。こうやって一声掛けると、みんな集まってくるのがこのレスターというチームのいいところですね。みんなで見ることは前日に決まったんですけど、みんなで観ることが決まったあたりから僕自身、まだ優勝もしていないのに、気持ちがすごく盛り上がってきたんです。いいチームに来たなあって。
――とはいえそのトッテナムとチェルシーの試合は、前半で2対0とトッテナムが勝っていて、正直この試合で決まることはないかな、という展開でした。
自分のなかでも「チーン」って感じでしたね(笑)。
――はははは。
チェルシーがあまりにも簡単に失点していたので、チームメイトも「チェルシーどうした!」「何をやってるんだ」とか言いながら、「ラスト10分でもこの点差だったら帰ろう」というような雰囲気でした(笑)。僕自身も、ちょっとこの試合は勝てる見込みなさそうだな、と思っていたし、やっぱり自分たちでしっかり優勝を決めなきゃダメなのかな、と思いながら見ていましたね。
――それがあれよあれよと、同点に。
そうですね。まずケーヒルが一点目を決めた時点で「これはあるぞ!」「あと30分楽しめる!」っていう「プチ喜び」が湧いてきましたね(笑)。
――レスターの指揮官ラニエリは、かつてチェルシーでも指揮を執っていて「ラニエリのために」のようなメッセージボードを観客が掲げているなど、スタジアムの雰囲気もすごくよくなっていった気がします。
かなり激しい試合展開になりましたよね。正直、驚いたんですよ。「なんでチェルシーはこんなに(順位も関係なくなった試合で)頑張ってくれるんだろう」って。
でも一方で、僕たちレスターが戦ってきたシーズンに対する、サッカー選手としてのリスペクトのようなものは感じました。もしかしたらそういう部分というのは、ラニエリの人柄があってこそだったのかもしれません。人柄というか、そういう部分が、周りを味方につけるじゃないですけど、一押しになった気がします。
明日のテーマは「ヴァーディの家で、喜びと感傷に浸った」です。お楽しみに!