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アニメが繰り返す、「タイムリープ」というテーマ

なぜ「orange」「ReLIFE」「Re:ゼロから始める異世界生活」が同時期に放送されたのか?

「過去をやり直す」作品だけが持っている、本当の魅力

写真提供/photoAC

「orange」「ReLIFE」「Re:ゼロから始める異世界生活(以下、リゼロ)」現在放送されているこれらのアニメーション作品は、それぞれタイプは違うものの、「過去をやり直す」という共通したテーマを持っている。

「orange」では、過去に後悔していることをやり直すように書かれた手紙が10年後の自分から届けられる。「ReLIFE」では27歳無職の主人公が高校生に若返る薬を飲み、現代の高校生として高校生活を送る。「リゼロ」では、異世界に転生した主人公が、死ぬと過去に時間が巻き戻る特殊能力を活かして失敗をやり直し、様々な問題解決に立ち向かう。

 それぞれ原作がある作品であり、「orange」は実写映画化もされているのだが、共通したテーマの作品が同時期に複数放送されているという点は興味深いことと言えるだろう。時代や社会が無意識のうちにそのテーマを求めているということなのだろうか。だとすると、作者たちや作品の受け手である10代や20代の若者たちが、「過去をやり直したい」という欲求を強く持つようになったと考えられるかもしれない。

 だが、「過去をやり直したい」という欲求は老若男女誰もが抱く普遍的な欲求である。SFや映画にもよく見られるテーマだし、日本でも「時をかける少女」から近年では「魔法少女まどか☆マギカ」「Steins;Gate」「僕だけがいない街」など「過去をやり直す」作品は数多くある。

「あの時こうしていれば」というように、過去をやり直したいと感じる想いは誰もが心の中に抱えている。「もし時間を遡れるならば……」と感じる思い出は、誰の人生にも一つや二つはあるのではないだろうか。その想いを実現するフィクションは、既に一つのジャンルとして確立されたものである。人生は一回きりでやり直しができないものとわかっているからこそ、人はこういったフィクションに惹かれるのだろう。だから、今になって突然、多くの人が「過去をやり直したい」という欲求を持つようになったわけではない。

 だが、こういった「過去をやり直す」ことがテーマとなった作品には、通常の作品にはない強みがある。特に「リゼロ」などの「タイムリープ(意識が記憶を持ったまま過去の自分に遡る)」によって過去をやり直す作品では、どんな出来事があってもタイムリープによってなかったことにできるので、ヒロインや主要キャラクターが無惨に殺されたり、世界が滅亡寸前になるほど破壊されてしまったりするような、通常の作品ではよほどのことがない限り不可能な描写を行い、大きなインパクトを与えることができる。

 ヒロインが殺されても助けるためにタイムリープし、その度に失敗を繰り返す。前回とは別の方法で試しても別の障害にぶつかり、ヒロインが別の方法で殺されてしまう。タイムリープと失敗を繰り返すキャラクターは次第に絶望に染められていく。凄惨な経験をしてタイムリープをすると、そこには何も知らずに穏やかな日常を送る過去のヒロインの姿がある。

 凄惨なシーンをできるだけ凄惨に描くことで、何気ない日常とのギャップが大きくなり、その大切さが鮮明になるし、この先どうなるのだろうかという引きも強くなる。大きな失敗を何度も繰り返した後に未来を変えることができれば、感動もより大きくなるだろう。タイムリープして苦闘するキャラクターや、助ける対象のキャラクターへの愛着も湧きやすい。

 近年では、重厚なストーリーを描く作品よりも、キャラクターの魅力やキャラクター同士の関係性の描写を重視した作品のほうが人気が出やすい傾向があるように感じる。そういった中で、より重厚なストーリーを描きながら、キャラクターの魅力も引き出す手法として「過去をやり直す」というテーマが選ばれることが多くなったのではないだろうか。

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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