西武鉄道安比奈線【後編】街から森の中へ進む電車道
ぶらり大人の廃線旅 第8回
■珍しいポーナル桁と森の散歩道
橋桁に記されたペイントは錆びてまったく判読できないが、橋桁を縦向きに補強している補鋼材の形を見て嬉しくなった。両端が曲がって接続されてるのが特徴の「ポーナル桁」ではないか。正式には「鉄道作業局錬鉄式鈑桁(ばんげた)」と称し、英国人技師ポーナルにちなむ英国式の桁だが、老朽化や荷重の強化により取り換えられて今では珍しくなっている。主に明治期のものなので、この桁はおそらく幹線で使われていたものを、規格の低いこの支線を安上がりに建設するために払い下げられたのではないだろうか。築堤を上がって橋梁を俯瞰したが、隙間だらけのこの橋を渡って万が一の落下などすれば迷惑がかかるので、写真を撮っただけで用水路をはるばる迂回した。それにしても、あのポーナル桁を捨ててしまうのはもったいない。なんとか現地で保存できないものだろうか。
周囲は新しい家も少しずつ建っているが、基本的には農村的なたたずまいである。その中をまっすぐ伸びる「廃線」は草むらの中を通り、小さな用水を渡ってひたすら直進、やがて森の中へ入っていく。ここは地元の地名をとって「池辺(いけのべ)の森」と呼ぶらしい。この区間も立入禁止だが、脇から1人だけ入れる隙間がちゃんと空けられていた。粋な計らいである。
落ち葉に埋もれつつも鈍い光を放つ2条のレールと鬱蒼たる木立が、何ともいえず雰囲気をもった散歩道にしている。廃止するにしても、このままの姿で遺すことはできないだろうか。昨今の廃線跡は、カラー鋪装でレールの形を模したタイルなどを埋め込むといった無粋なことをしがちであるが、これを放置しても誰も怪我などしないだろう。
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