知識が成長を邪魔する? 知識のミニマリズム |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

知識が成長を邪魔する? 知識のミニマリズム

「最小限主義の心理学」不定期連載第6回

 本の知識は役に立つか

 本を読み、知識を蓄えることは、将来的にあらゆる場所で役に立つ。そう考えるのは当たり前のことだと思う。

 サーフィンをする前に、本を読んで理論を勉強する。波が来たら両手でボードを押して、上半身を起こして…。

 何度も頭の中でリハーサルすれば、きっと初めての日でも上手に乗れるだろう…。

 私も高校生のとき、バイクを買うことになって、本を何度も読んだ。原付免許では、私が買うようなマニュアルシフトの練習はないからだ。私は家から離れたショップに出向いて、一人でそのバイクを乗って帰ってこなくてはならない。

 本を何度も読んで、バイクのシフト練習を頭の中でリハーサルした。

 これに関しては上手くいった。頭の中で考えていた通り、シフトチェンジもできた。

 でもサーフィンはどうだろう。蓄積した情報、知識は、役に立つだろうか。

 私はサーフィンよりも先にはじめたウィンドサーフィンで本を使った。誰も教えてくれる人がいなかったからだ。

 でも、正直本の知識が本当に役に立ったのかどうか、今となってはわからない。

 

 だとしても、「知っている」ことは自分の成長において、やがて役に立つのだと考えるのが人間だ。

 知識はないよりもあるほうがいいし、知的であることは恥じることではない。

私は実際にそう思って、本を読んで英語や歴史の知識を溜め込んできたのだと思う。読めば読むほど、人間として成長する。そんな気分でいたのだ。

 

 その私にとって、「知識や情報が、自分の成長の妨げになる」と考えるのは、容易ではなかった。

 でも最近、明らかに知識が人の成長の妨げになっているシーンに遭遇したのだ。

 勉強すればするほど、あることが上手くできなくなるという例だった(詳しくはまたお伝えする機会があると思う)。

 進学校に進学し、いい大学にいって…というコースが人間としての成長コースだと思っていたのに、私は何か勘違いをしていた。蓄えた情報や知識のせいで、人間的に成長できない部分もあるのだと考えることができなかった。

 ミニマリズムにおいて私は、「何もしない時間」を大切にするようになり、情報の遮断の気持ちよさを訴えるようになった。実際に私がネットを断っているわけではないので偉そうなことは言えないが、海外なので繋がらない世界に降り立ったときのことを言っている。そういった「何もしない」と「情報の遮断」は、「気持ちがいいから、一度してみてほしい」と思っていたのだが、他にも効果があったのだ。

 何もせず、知識を溜めなかったおかげで、今目の前にある取り組みたいことに対して、知識を溜めていた人より上達が早かったりするということ。考えてみれば、いろいろあるかもしれない。

 

 上達において共通している事柄がひとつある。

「次のことに集中する」

 ということ。

 これを行うときに、知識が邪魔をする。体の本能であったり、反射は本来スピードを持つのに、知識があると「確認」や「疑問」がそれを妨げる。

本能や反射部分を磨いて体は動きを高めていくのに、何度も立ち止まってしまうのだ。

 スポーツ、言語習得においてそれは顕著だと思う。

 私はその点において、いつも香川真司が気になる。

 セレッソではあんなにすばしっこく機敏に動いて、誰もついていけなかった香川。

 ドルトムント1年目も同じような動きで、本能的なフェイントを多用してゴールを量産していた香川。

 それが、マンチェスター・ユナイテッドに移籍してからぱったりとなくなってしまった。

 賢くなるサッカー選手

 素人の私が勝手に推測するのも気が引けるが、原因は「学びすぎ」だと思う。

 バルセロナのようなポゼッションサッカーをしたいという意図があったり、輝けるメンバーたちとの共存を考えたり。

 ドルトにやってきたときは、「案外自分のほうがいけるんちゃうか」みたいなことを開幕前に行っていたのに、マンUでは完全にチームの歴史やメンバーの凄さを知りすぎていた。

 何も考えず、本能で動き、敵を翻弄する。次の動きだけに体を集中させる。

 それができなくなったのだ。

 自然とパサーとなった香川に、その後も活躍の場所はなかった。彼は本来、本能的ドリブラーだったのだ。

 

 では、「知識が邪魔をしているので、今すぐ本能的プレーに戻れ」と言ったところで、すぐに戻れるわけでもない。

 本能的プレーは、本能的プレーをいつもすることで磨かれるからだ。

 その点、本田は考えすぎで、香川以上に活躍できていない。

ということは、現日本代表自体がそういう「賢い集団」になってしまっているのかもしれない。だったら、下の世代のようにナイジェリアに負ける。

 それに比べて子どもは素直だ。

 余計な知識がないから、素早い体の動きを大事にして、磨いていく。

 ただ体の動きを磨いていく。

 何も考えない。

 体操の白井みたいだ。

「ジャンプするとき何を考える?」

 白井「何も」

オススメ記事

沼畑 直樹

ぬまはた なおき

ミニマリスト。テーブルマガジンズ代表。元バックパッカー。

2013年、「ミニマリズム」「ミニマリスト」についての記事を発表し、佐々木典士氏とともにブログサイト≪ミニマル&イズム(minimalism.jp)≫をたち上げる。 著書は、小説『ハテナシ』、写真集『ジヴェリ』『パールロード』(Rem York Maash Haas名義)など。


この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

最小限主義。 「大きい」から「小さい」へ モノを捨て、はじまる“ミニマリズム
最小限主義。 「大きい」から「小さい」へ モノを捨て、はじまる“ミニマリズム"の暮らし
  • 沼畑 直樹
  • 2015.11.21