雨にけぶるJR因美線の旅
津山まなびの鉄道館、寅さん最後の作品の舞台駅
鳥取駅から岡山駅に鉄道で向かうなら、智頭急行線経由の特急「スーパーいなば」利用が一般的であろうが、途中で2016年春にオープンした「津山まなびの鉄道館」に立ち寄ろうとしたために、JR因美線全線を経由することにした。
ところが、鳥取駅から因美線を直通する列車はないのである。鳥取駅発の因美線は、特急も普通列車もすべて、因美線の智頭駅と津山駅間を無視している。郡家(こおげ)駅から若桜鉄道へ乗入れる列車以外は、智頭駅で折り返す列車、智頭駅から智頭急行線に乗り入れる列車ばかりだ。鳥取駅から智頭駅間は因美線とはいうものの、智頭駅と上郡駅を結ぶ智頭急行線と一体となっていて、智頭急行線が鳥取駅まで延びているような雰囲気なのである。それを裏付けるように、鳥取駅発智頭行きの列車は、因美線だけを走るにもかかわらず、智頭急行のディーゼルカーが用いられていた。
まずは、この列車で智頭駅まで向かうことにした。わずか1両の列車で、シニア女性のグループをメインに満席に近い状況だった。何とか進行方向窓側の席を確保したものの、4人席はすべて埋まり、やや窮屈である。鳥取を出ると、列車はほぼ南に向かって進路を定め、遠くに見える山々を目指して平地を快走する。
意外なことに若桜鉄道の乗換駅郡家でかなりの人が降り、車内はすっかり寂しくなった。女性グループも下車したので、静かになり、列車は以後淡々と各駅に停まり、鳥取を出て50分足らずで智頭に到着した。
この列車は、智頭で15分程停車した後、智頭急行線に乗り入れて大原まで行く。次の津山行きは、ほぼ1時間後の発車である。朝8時15分発の津山行きのあとは、この列車まで5時間近く間隔があいているとは、凄まじい列車ダイヤだ。もっとも智頭駅にいるかぎりは、その間に、智頭急行線経由の岡山発鳥取行きの特急「スーパーいなば」がやってくるし、智頭駅が終点となる智頭急行線の列車も到着するなど、見ているだけで退屈はしない。
そうこうしているうちに、発車の10分程前くらいになると、津山から列車が到着した。ややこぶりのディーゼルカーであるキハ120形1両だけの列車である。折返しとなるので、降りる人を待って乗りこもうとしたら、たった一人しか乗客はいなかった。乗り込んだのも私一人だけで、さすがに発車間際になって、若い女性とシニアの女性が車内に入ってきたけれど、合わせて3人。列車本数が極端に少ないのもうなづける。
たまたま智頭急行の普通列車と同時発車で、向こうも1両だけ。並んで走っているうちにだんだんと線路が離れていき、やがて見えなくなった。
さて、鳥取駅から智頭までの区間とは打って変わり、津山行きは山間部を走る。智頭から2つめの那岐(なぎ)駅は、長いホームが向かい合っていて、かつては急行列車が行きかった重要な路線だったことを偲ばせる。ここで若い女性が降りていき、車内は2人だけになってしまった。後部のボックス席だけで事足り、前方のロングシート席は無人である。
このあたりで、列車は進行方向を西に変え、やがて長い物見トンネルを抜けると美作河井(みまさかかわい)駅。美作という旧国名で分かるように、トンネルを境にして岡山県に入ったのだ。鳥取県内は曇り空だったのに、岡山県に入ると雨が降り出してきた。山間部の風景が水墨画のようにけぶって見える。次の知和(ちわ)駅も古びた木造駅舎で、誰も乗り降りしないので雨に打たれてさびしげだ。
まわりは次第に開けた感じになってきて、気が付くと乗客は2人ほど増えていた。もっともいずれも高齢者で私が最年少のようだった。
因美線は木造駅舎が多い。美作加茂(みまさかかも)駅は、そうした中でも小奇麗で近年リニューアルしたと思われる。ここから津山駅までは区間列車が走っているように、人の行き来はそれなりにあるらしく、2人ほど乗ってきて、やっと悲惨な状況は脱したようだ。一方、雨は少々激しくなってきたようで、車窓が見づらくなってきた。
美作滝尾駅は、寅さん映画最後の作品である「男はつらいよ 寅次郎紅の花」の冒頭シーンのロケが行われた駅だ。窓からはよく見えないので、短い停車時間にドアが開いた所で駅舎を垣間見ておいた。先を急ぐので下車しなかったが、いずれ再訪したいものである。
東津山で姫路方面から延びてくる姫新(きしん)線と合流し、吉井川を渡ると津山に到着である。当初の予定通り、降りしきる雨の中、駅の裏手にある「まなびの鉄道館」に足を運んだ。