誰が彼女たちを買うのか? 児童買春をする男性の「加害者像」
見えない買春の現場 「JKビジネス」のリアル 第2回
■「児童買春は減っている」現実と報道のギャップ
意外に思われるかもしれないが、児童買春の逮捕者数は減少傾向にある。警察庁生活安全局少年課の統計資料(平成26年版・児童虐待及び福祉犯の検挙状況等)によると、児童買春の送致件数は2004年の1668件と比較して、2014年は661件と半分以下に減少している。2014年には女子高生との散歩やマッサージ、場合によっては性的行為を売りにする「JKビジネス」が流行語大賞にノミネートされ、あたかも秋葉原を中心とした都市部で児童買春が蔓延しているかのような報道がなされたが、それは統計的に見れば真実ではない。
90年代に巻き起こった女子高生の援助交際ブームも、実際は女子高生だけが活発に援助交際をしていたわけではない。前述したメディア型風俗の隆盛によって、専門学校生や大学生、会社員や専業主婦など、幅広い年代の女性が援助交際に参入するようになり、その過程で女子高生だけに報道によるスポットライトが過剰に当てられただけである、という見方もある。
「児童」も「売買春」も、いずれも人々の感情をかきたてるキーワードであるため、どうしてもメディア上ではセンセーショナルな形で報道されがちだが、児童買春を正しく問題化していくためには、そういった報道と実態の乖離を意識する必要がある。
■買春男性を巡る神話
『多発する少女買春 子どもを買う男たち』(いのうえせつこ:2001年・新評論)では、未成年の少女を買春する男性には、下記のような特徴があると書かれている。
・恋愛経験が乏しく、母子分離できていない
・同年齢の異性と対等な人間関係を持てない
いずれの特徴も、多くの人が児童買春する男性に対して抱いているイメージではないだろうか。ちなみに同書の中では、タイトルに反して実際に少女買春をしている男性は一人も登場しない。著者もそうした男性に対して直接インタビューは行っていない。児童を買春する男性の姿は、あくまで伝聞や新聞記事などの二次情報に基づく著者の想像のみで描かれ、批判されている。つまりこうした特徴は、実際に児童を買春している男性に一度も会ったことの無い女性が先入観で作り上げた、幻想としての「加害者像」にすぎない。
ちなみに、児童を買春する男性は常に「加害者」になるわけではない。女子高生の援助交際が流行した90年代には、未成年の少年少女が共謀して、援助交際を装って男性を誘い出し、盗みや暴力で金品を巻き上げる「オヤジ狩り」が流行した。児童買春を行ったことを世間に知られることを恐れて被害届を出さない・出せない男性の弱みにつけ込み、金を巻きあげようとする男女や業者は現在に至るまで存在している。買う男性も「被害者」になる場合があるのだ。
売る側の児童が家庭環境や学校、経済事情などの複雑な問題を抱えていることは容易に想像できるが、買う側の男性も同じように複雑な事情を抱えていることまでは、なかなか想像が及ばない。買春男性を糾弾したい、性暴力を根絶したいと願う女性団体が児童買春の現状を社会に発信する中心になっている現状では、なおさらだ。どうしても、「児童を性的に搾取する極悪非道の加害者」という一面的なイメージに留まってしまう。
しかし本当に児童買春の問題を解決するためには、「主人公」である買う側の男性の背景を、先入観や偏見を排除した上でより深く分析する必要があるはずだ。
(「見えない買春の現場 『JKビジネス』のリアル」より構成)