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かつて、大阪は人が住むどころではなかった

シリーズ「瀬戸内海と河内王朝を地理で見直す」④

常に新たな視点を持ち、従来の研究では取り扱われなかった古代史の謎に取り組み続けてきた歴史作家・関裕二が贈る、『地形で読み解く古代史』絶賛発売中。釈然としない解釈も、その地にたてば、地形が自ずと答えてくれる!? 「瀬戸内海と河内王朝を地理で見直す」をシリーズで紹介いたします。

河内に巨大前方後円墳がある理由

 古代の大阪も、瀬戸内海を東西に往き来する船の止まり木として、中継基地として、大いに発展したのだ。流通の起点であると共に、終着点でもあった。

 ただし、ヤマト建国当初から、大阪が発展したわけではない。地勢上の弱点を抱えていたからだ。

 ヤマト建国当初の大阪は、土地の狭い窮屈な場所だった。ほとんどが海か湖(湾)の底だったのだ。物部氏や中臣氏が生駒山の西側にへばりつくように拠点を造っていたのは、すぐ西側が湖(湾)だったからだ。

 大坂城は南北に細長い上町(うえまち)台地の先端部に築かれているが、かつては、ここが半島だった。

 上町台地の西側が海で、東側が河内(かわち)()(湾)だったのである。

▲上町台地の北に立つ大阪城

 ヤマト政権は長い歴史のなかで、時々大阪に都を遷すことがあった。宮が造られたのは、たいがい上町台地の上で、のちの時代の大坂城の近辺だった。やはり古代人も戦国武将も、考えることは同じだ。戦略上重要な場所を、本能的に察知したのだろう。

 ちなみに、豊臣秀吉が大坂城を築く前は、石山本願寺がここを支配し、織田信長と死闘を繰り広げていた。大阪で敵を相手に防衛するには、上町台地か、あるいは楠木正成が採ったように、葛城山系を頼るか、長髄彦(ながすねひこ)のように、生駒山を背に戦う手があったのだ。そして、日本の流通を支配したいのなら、やはり上町台地が必要だ。だから力を持った者は、かならずここを手に入れたのだ。

 ただ、3世紀、4世紀の段階で、大阪で農地を増やし、人口増を期待することはむずかしかった。わずかな平地も、水害に苦しめられたのだ。これは仕方の無いことだった。なにしろ河内湖には、大阪府(石川、淀川)のみならず、奈良県(大和川)、京都府((かつら)川、(かも)川)、滋賀県(瀬田川、宇治川、さらに琵琶湖に注ぎ込む川すべて)、三重県の伊賀(木津川)の水が集まってきたのだから(想像を絶する量だ)。しかも堆積物で、上町台地の先端部がどんどん北に向かって伸び、海への出口が狭まっていったのだ。この結果、河内湖周辺で、たびたび水が溢れたようで、低い土地は、人が住めるような状況ではなかったのだ。弥生時代の水害の様子も分かっている。

 もちろん、ヤマト政権は、河内湖問題を座視しておくことはできなかった。じつは、五世紀に河内に巨大前方後円墳がいくつも造られていくのは、治水工事のためだった可能性が高いのだ。

『地形で読み解く古代史』より構成)

明日は瀬戸内海と河内王朝の謎シリーズ⑤「もてはやされる三王朝交替説」です。

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関 裕二

せき ゆうじ

 



1959年生まれ。歴史作家。仏教美術に魅了され、奈良に通いつめたことをきっかけに、日本古代史を研究。以後古代をテーマに意欲的な執筆活動を続けている。著書に『古代史謎解き紀行』シリーズ(新潮文庫)、『なぜ日本と朝鮮半島は仲が悪いのか』(PHP研究所)、『東大寺の暗号』(講談社+α文庫)、『新史論/書き替えられた古代史』 シリーズ(小学館新書)、 『天皇諡号が語る 古代史の真相』(祥伝社新書)、『台与の正体: 邪馬台国・卑弥呼の後継女王』『アメノヒボコ、謎の真相』(いずれも、河出書房新社)、異端の古代史シリーズ『古代神道と神社 天皇家の謎』『卑弥呼 封印された女王の鏡』『聖徳太子は誰に殺された』『捏造された神話 藤原氏の陰謀』『もうひとつの日本史 闇の修験道』『持統天皇 血塗られた皇祖神』『蘇我氏の正義 真説・大化の改新』(いずれも小社刊)など多数。新刊『神社が語る関東古代氏族』(祥伝社新書)



 


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