「都会にはできない医療」が地方の消滅を救う
第3回 最強の地域医療
地方の消滅を救うのは「医療」なのではないか――夕張のまちと医療を改革した村上智彦医師は、最新刊『最強の地域医療』(ベスト新書)の中でそう指摘しています。村上医師とともに地域医療の最前線に携わる永森克志医師が、「都会にはできない医療」に地方の活路を見出す。
医療・介護は「まちづくり」に使うことができる
前回の記事で書いたように、長野県は住民の健康意識が高まり、長寿日本一の地域となりました。では、これからもこの延長線を行けば安泰なのでしょうか?
残念ながら、答えはNOです。
戦後の日本は工業化社会の道を邁進し、大都市中心、高度経済成長を成し遂げることができましたが、一方で地方は疲弊過疎化し、衰退の一途をたどってきました。その結果として、『地方消滅』(増田寛也編著、中公新書)に書かれているように、全国で896もの自治体が「消滅可能性都市」として危機に瀕しています。
長野県のように安い医療費で長生きする医療はもちろん素晴らしいのですが、それだけでは過疎高齢化した地方を維持していくことはできません。
そこでポイントになるのが、医療・介護を「使った」地域活性化です。
過疎高齢化した地域では必然的に医療・介護ニーズが高まるので、むしろ事業を積極的に展開していくことで、地域活性化につなげるチャンスでもあるというわけです。
医療介護を使ったまちづくりの草分けには、長野県佐久のまちづくり=メディコポリス構想があります。
基本条件
(1)医療・福祉システムの整備
(2)教育施設の充実
(3)住民の生計を確保できる産業振興
私たちは「夕張希望の杜」でこの発想を活用し、財政が破綻したまち、高齢化日本一の市、夕張を変えるために奮闘していきました。
(1)病院に頼らない、地域包括ケアシステムの構築
(2)スタッフ、地域住民への健康教育
(3)在宅、介護の需要の増加による医療介護業の発展
この「夕張まちづくりモデル」によって、村上智彦医師は「若月賞」(地域医療や保健・福祉分野などで業績のあった人に贈られる)を受賞します。
ただこのモデルは、「大きい組織目線」「上から目線」の医療介護を使ったまちづくりでもありました。実際に夕張では役所、首長などの理解不足で、在宅主体の医療介護まちづくりが進まなくなってしまいました。
やはり地域の住民が主体にならない限り、まちづくりは難しい。では、住民が主体になってメディコポリス構想、夕張まちづくりモデルを深化させるためにはどうすればいいのか。
その答えが、私たちが北海道の岩見沢、旭川で実践している『ささえるクリニック』での取り組みです。「ささえる医療」「ささえる介護」を手段としてまちづくりを担っていくために、地域住民でもある「スタッフ目線」を意識するようになりました。
「ささえる流ハッピーコミュニティの必要条件」
(1)ささえる医療と介護を手段として、
(2)みんなと楽しく学び続ける場所があり
(3)笑顔で楽しく働ける場がある
私たちは夕張という高齢化率45%超の地域で医療と向き合いながら、この町の消滅が目の前に迫っていることを実感していました。地方の消滅を防ぐための切り札こそが、医療介護を使ったまちづくりなのだと思います。
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