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平成米騒動

キーワードで振り返る平成30年史 第4回

平成米騒動
~平成5年(1993)~

illustration:TADASHI SATO

 先日中東のイランを訪問した。日本で抱かれているイメージとは大きく異なり非常に治安がよく親日家の多い国だったのだが、食事は不思議な感じのものだった。前菜のような形でナンが出される。で、メインには米が出てきたりする。お好み焼き定食もびっくりの炭水化物のダブルヘッダーだ。
 全体としては美味しいというには微妙なところだったが、こと米に関しては日本より長細いものの、味や柔らかさは日本のそれに近くそれなりに美味だった。ちょうど1年前アフリカ南部を旅したときに出される米の硬さに辟易したものだったが(どこで出されたのもBoiledRiceじゃなくてFriedRiceだった)イランの米は日本ではもうすっかりお馴染みになった東南アジアの米以上に日本にあっている気がする。 

 その東南アジアの米を代表するタイ米(インディカ米)が特殊な店を除き日本に初登場したのは、平成5年のいわゆる平成米騒動のときのことだった。記録的な冷夏により米不足となり、急遽タイから米が輸入される。多くの日本人がこの細長い米に最初に出会ったのは外食時のこと。食品や農産物に対する国産信仰が強かったこともあって、タイ米に対する評判は芳しくなかった。まだ日本から東南アジアへの旅行者も少なかったこともあって、タイ米というものにまったく馴染みがなかったせいもあるだろう。
 私個人は日本の米の代わりにはならないと感じつつも、独特のパサパサ感など、これはこれでありだなと思ったものだ。炒飯には向いている、カレーだと悪くないなどプロ・アマ問わず多くの料理人が異国からやってきた米を如何に美味しく食べるかに苦心していたのも、東南アジアが日本人の移民希望先の上位にランクインされ、街にはエスニック系の料理店が立ち並ぶ今となっては隔世の感がある。ああ、なんだか急にタイ米が食べたくなってきた。

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後藤 武士

ごとう たけし

平成研究家、エッセイスト。1967年岐阜県生まれ。135万部突破のロングセラー『読むだけですっきりわかる日本史』(宝島社文庫)ほか、教養・教育に関する著書多数。


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