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印象派の画風を捨てたルノワール 溶けあうような柔らかいタッチとなめらかな色彩の世界

日本にある! “世界的名画” 鑑賞ガイド「ルノワール篇」

「踊り子の画家」ドガが、親友マネを怒らせ、引き裂かれた肖像画とは?若き日のピカソが、亡き親友との思い出の海を舞台に選んだ作品とは…有名画家の創作秘話や驚きの技法を楽しめる傑作を紹介する。今回取り上げるのは、ルノワールの『レースの帽子の少女』(雑誌『一個人』2018年3月号より)。

「真珠色の時代」を代表する、愛らしい少女像

 生涯、喜びにあふれた幸せな絵画を描き続けたルノワールは、「印象派」の代表的な画家である。ただし彼が画家として名実ともにブレイクするのは、サロンで大成功を収め、良家の子女の肖像画を描き始めた1870年代後半のこと。絵画史上最も有名な美少女との呼び声高い《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢》は、この時期の頂点を飾る作品といえる。
 その後、自らの芸術に行き詰まりを感じたルノワールは、印象派の画風を捨て、試行錯誤を繰り返す。そうした苦労の末に彼が獲得したのが、溶け合うような柔らかなタッチと、なめらかな色彩の世界だった。《レースの帽子の少女》は、「真珠色の時代」といわれるこの時期に描かれた作品だ。透明感のある肌にバラ色の頬、ふっくらとした唇に、煙るような金髪が美しい可憐な少女。その夢見るような表情に加えて、とりわけ目をひくのは、彼女がかぶる大きなレースの帽子である。
 仕立て屋の家庭に育ったルノワールは、女性を描く時、モデルのファッションに多大な注意を払った。本作でも、複雑な構造のレースの帽子が荒々しいほどに勢いよく描かれ、モデルの穏やかな魅力をよりいっそう引き立てている。

勢いよく描かれたレースの帽子と、他の部分のタッチの違いに注目(『レースの帽子の少女』1891年 ポーラ美術館蔵)

雑誌『一個人』2018年3月号より構成〉

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木谷 節子

アートライター。雑誌やアートムックなどで美術情報を執筆。近年は絵画講座の講師としても活動中。著書に『名画のたのしみ 日本でみられる世界の絵画』など。


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