【JR御殿場線】富士山・桜のトンネル・曽我梅林!日本の美が堪能できるローカル線 ~女子鉄ひとりたび~
インスタ映え確実!本線から降格された哀しき路線を巡る
■1月下旬からは名勝・曽我梅林、春は山北駅界隈の「桜のトンネル」の絶景が味わえる!
迫力ある富士山の車窓を望めることで人気の路線、神奈川県の国府津(こうづ)駅と静岡県の沼津駅を結ぶJR御殿場線。もともと東海道本線の一部として開業するも、昭和初期に熱海〜函南(かんなみ)間の丹那(たんな)トンネルが開通して、ショートカットされたことにより支線となった。一線から退いて後輩に席を譲ったような、東海道本線の先輩路線だ。
一押しは、山北(やまきた)駅界隈で通過する「桜のトンネル」。さらに、前述したように車内からは富士山の全容を間近に眺めることができ、その威容に圧倒される。ここは、日本の美がギュッと詰まった路線だ。春の日本ならではの風景が見たくなり向かった。
この日は、「青春18きっぷ」の有効期間だったこともあり、東京からJRだけで御殿場線へ。国府津駅からはJR東海の管轄となるので、車両もオレンジ色の帯に変わる。それだけで、遠くまで来たなぁ、という気分になるから不思議だ。
国府津駅を出発すると、列車は右方向に大きくカーブし、足柄平野を北上。車両基地である国府津車両センターを左に見て、ほどなくすると、名勝・曾我梅林(そがばいりん)が広がる。桜のイメージが強い御殿場線だけど、この区間では例年1月下旬から2月下旬まで、車内から梅の花見もできる。
朝7時、最初の目的地である山北駅に到着。まだ冬の冷たさが残る澄んだ空気が全身を包み込み、一気に目が冴えた。私を運んでくれた列車を見送ろう。沼津方面を見ると、ホームが切れた先の線路脇がピンク色に染まっていて、列車が桃色の世界へ吸い込まれるように走っていった。なんてメルヘンチックなの! おとぎ話みたい。そこだけ次元が違って見えた。
改札を出てさっそく桜のトンネルへ向かう。駅周辺は民家が並んで落ち着いた雰囲気だけど、御殿場線が東海道本線だった時代、この界隈は給水・給炭の拠点となっていて、広大なヤードと機関区を擁する一大拠点だったそうだ。
当時、駅周辺には国鉄の官舎が立ち並び、最盛期には数千人の鉄道関係者がこの地に住んでいたという。そのころは歓楽街が広がり、映画館も何軒かあったというから驚きだ。今は静かな街並みが広がっていてすっかり景色は変わってしまったが、駅近くの市街地には古い建物が多く街歩きが楽しい。かつての街の勢いを反映してか、豪華でおしゃれなレトロ建築も数多く残っている。お店には、鉄道写真が飾られていたり模型が置いてあったりと、鉄道に対する地域の皆さんの愛を感じる。鉄道とともに発展してきたこの街の歴史が垣間見えた気がした。
桜のトンネルは、山北から谷峨(やが)駅方面へ徒歩5分のところにある。切り通しの区間の崖上両側に桜の並木が続くが、線路に覆いかぶさるようにして並んでいるので、まるで桜の傘のよう。朝早く行ったため、この一帯には人影がなく、桜の大パノラマが自分だけのもののようで気分がいい。桜はまさに満開、さらに切り通しの斜面には菜の花も咲き誇り、ピンクと黄色のコントラストは言葉に表せないほどの美しさだ。
列車と桜と菜の花が一望できる絶景スポット、今どきの言葉で言えば「インスタ映え」なのだろう。鉄道に興味がなくても、思わず写真を撮りたくなること請け合いだ。
また、都市部から適度に遠いこともあり、日中でも、お花見客で身動きが取れなくなるというようなこともない。自分のペースでじっくり鉄道と桜を愛でることができるのだ。左右の崖を結ぶ橋の上に列車の通過時刻が書いてあるのは、「撮り鉄」に対する地元の人のサービスだろう。地域を挙げて鉄道を盛り上げようとしていることが伝わり、何とも嬉しい。おかげで私もたくさんの写真を撮ることができた。カメラの中は、SNSで「いいね!」がたくさん付きそうな写真でいっぱいだ。
桜の土手を駅の方に向かって降りると、山北鉄道公園がある。ここにはかつて御殿場線で運用されていたSL、D52形が保存されている。最近では圧縮空気を用いた動態保存運転も行われるようになり、国鉄時代の息吹を今に伝えている。公園内でもたくさんの桜の花が迎えてくれた。こちらの桜並木もお見事。
展示されている跨線橋の柱には「鉄道院」の刻印が残されていた。鉄道院とは、国鉄の前身である鉄道省のさらに前身にあたる組織で、明治から大正にかけての一時期存在していた。もちろんその時代のことは全くわからないが、懐かしい気分にさせてくれる鉄道遺産は、昔話を読み聞かせてくれるおばあちゃんのようだ。
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『女子鉄ひとりたび』
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木村裕子
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