GEとマッキンゼーの社長養成術
「社長になれる人、なれない人」(7)
営業と人事が別の仕事であるように、また総務と企画が別の仕事のように、経営の仕事もまたそれらとは全く違う別の仕事です。だからこそ、日本マクドナルドの社長だった原田泳幸さんがヘッドハンティングされて、ベネッセホールディングスの社長に就任するといったようなことが起こるのです。
こうした経営者のヘッドハンティングはアメリカなどでは従来から日常茶飯事ですが、中でも経営者人材を数多く輩出している企業として知られているのが、GEとマッキンゼーです。
特にGEは、2000年に当時のCEOだったジャック・ウェルチ氏の引退に伴い、次期CEOの候補者3人の中からジェフリー・イメルト氏が後継者に指名され、残りの2人がスリーエムとホーム・デポのCEOとしてヘッドハンティングされたことが大きな話題になりました。
また、日本GEと事業子会社出身の日本人も、リシュモン ジャパンやタイコ ヘルスケアジャパン(現・コヴィディエン ジャパン)、スミスメディカル・ジャパンといった多くの外資系企業の日本法人で経営手腕を振るっています。
熾烈な後継者争い
実際に経営をやらせてみないと経営者としての本当の能力なんて分からない、と私は考えています。
GEのCEOは、ここ何代かは40代半ばで選ばれています。そして20年程度、経営トップを務めます。最初の10年間は自身の経営戦略や仕組みを構築することに集中し、残りの10年間のかなりの時間を後継者選びに費やします。もちろん、株主がうるさいアメリカですので、後継者選びと並行して業績を出すことに努めなければならないのは言うまでもありません。
では、後継者を選ぶのにどのようなことをしているのでしょうか。GEには数多くの子会社があるので、有望な若手社員を社長としての実務に就かせて、経営者としての能力を見極めるのです。そして、その中から特に優秀な人たちを次期CEOの候補者として引っ張り上げます。
しかし、候補者たちがいくら優秀だとしても、CEOになれるのはたった一人だけ。残りの候補者たちも世界に名だたる企業であるGEで過酷な出世レースを戦い抜いてきただけに、経営者としての実力については申し分ありません。だからこそ、他の企業からスカウトされるわけです。これが、GEが多くの経営者人材を輩出している所以なのです。
一方、マッキンゼーも、経営者人材を輩出することでは定評があります。ご存知のように、同社は経営コンサルタント業なので、社員は若いうちから経営の現場を踏んでいるのは言うまでもありません。
ただ、アメリカの経営コンサルタントが日本のそれと違うのは、アメリカでは単にクライアント企業の戦略立案に携わるだけでなく、その企業に残り、戦略を実行して成果を残すところまで担当するようなケースがかなりあります。身分こそ社長ではありませんが、同社の社員はまさに若いうちから経営の現場にいて、経営の仕事をしていると言っていいでしょう。
日本でもGEほどではありませんが、私が知っている限りでは、総合商社や一部のエネルギー関連会社などが比較的若いうちから社員に子会社などの社長を経験させ、将来の経営陣のメンバー候補者として養成しています。
しかし日本企業の場合、子会社や関連会社の社長は、定年を過ぎた本社役員の上がりのポストであることがまだまだ多いのも事実です。
企業の規模の大小を問わず、子会社や関連会社であろうと、トップは孤独で意志決定は自分一人で下さなければなりません。
企業のナンバー1とナンバー2の決定的な違いはまさにこの部分で、若いうちに自ら意思決定を行うことを経験しているというのは、経営者としての能力を伸ばす意味で非常に重要です。今後、日本でもこうした経営者人材の養成が増えてくるのではないでしょうか。