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もう一つの天空の城

外川淳の「城の搦め手」第105回

「天空の城」といういと、十数年前から竹田城が話題を集めている。

 ついに年間入城者は50万人を突破。ひこにゃん人気の彦根城に肩を並べる勢いにある。

 竹田城は朝霧に浮かぶ姿から天空の城と呼ばれるが、荒廃した姿から、もう一つの天空の城としてコスプレーヤーの聖地となっているスポットがある。

 紀淡海峡に浮かぶ友ヶ島には、黒船来襲に備え、紀州藩によって台場が設置された。明治維新後も大阪湾防衛の要衝として近代砲台が設置された。

池尻台場略測図 (作成=外川)。谷を封鎖する形状の土塁が残される。築造当時の状態が描かれた古図面と対照すると土手状の盛り土が台場の遺構であることが判明する。

 

 近代砲台は、第二次世界大戦後、その使命を終えたのだが、占領軍は使用不能とするため、基礎部分を爆破した。

 爆破された近代砲台は、飛散した煉瓦が放置された状態で今日に伝えられる。

友ヶ島第1砲台。

 この光景がアニメのシーンを思い起こさせることから、天空の城として人気を集めているのだ。

 少し古い話だが、2014年9月、関西地区を襲った台風により、加太との間を結ぶ遊覧船の友ヶ島サイドの桟橋が吹き飛ばされてしまった。

 冬はオフシーズンのため、桟橋の修復は春先まで延期という予測もあったのだが、11月後半の3連休に間に合わせて修復工事が進捗。3連休には、乗り切れない客が出るほどの大盛況だったという。

 その翌週、私が主催する歴史探偵倶楽部では、友ヶ島の幕末台場を探査する予定だったが、希望する便に乗るには1時間以上前から並ぶ必要がある、とのことだったので、渡航を断念したことがあった。

蒲浦台場。海岸線沿いに土塁が良好な状態で残される。

  その時の私には、アニメのシーンに合わせたコスチュームを身に付け、近代砲台で写真を撮影して、何の意味があるのか、理解ができなかった。

 ただ、原作者独特な世界観をファンとして理解しているなら、なぜ、煉瓦が飛散するという状況が生まれたか、思考回路を巡らせることもあるのだと信じたい。

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外川 淳

とがわ じゅん

1963年、神奈川県生まれ。早稲田大学日本史学科卒。歴史雑誌の編集者を経て、現在、歴史アナリスト。



戦国時代から幕末維新まで、軍事史を得意分野とする。



著書『秀吉 戦国城盗り物語』『しぶとい戦国武将伝』『完全制覇 戦国合戦史』『早分かり戦国史』など。



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