「死んでもイヤだね!」間違いを認めない官僚組織が国民の生命を脅かす矛盾【75年前の今日:敗戦記念日】《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㉖》
命を守る講義㉖「新型コロナウイルスの真実」
なぜ、日本の組織では、正しい判断は難しいのか。
なぜ、専門家にとって課題との戦いに勝たねばならないのか。
この問いを身をもって示してくれたのが、本年2月、ダイヤモンド・プリンセスに乗船し、現場の組織的問題を感染症専門医の立場から分析した岩田健太郎神戸大学教授である。氏の著作『新型コロナウイルスの真実』から、命を守るための成果を出すために組織は何をやるべきかについて批判的に議論していただくこととなった。リアルタイムで繰り広げられた日本の組織論的《失敗の本質》はどこに散見されたのか。敗戦から75年経った現在まで連なる問題として私たちの「決断」の教訓となるべきお話しである。
■「自分たちは正しい」を結論とする「東大話法」
厚労省は少しずつ巧みに言葉をずらして、「自分たちは常に正しい」という話に持っていこうとします。これを安冨歩さんが「東大話法」と名付けていますね。
「本当はどうなっているか」はどうでもよくて、「自分たちは正しい」という結論を土台にしたがる。だから、実態がどうであれ、最後は「感染対策はちゃんとできている」という話に持っていくわけです。
でもダイヤモンド・プリンセスではまったくダメだったことがバレてしまったので、その論法が通用しなくなると、今度は「完璧ではないんだけど、しっかりやっている」みたいな言い方をしだすわけですよ。
「完璧ではない」というところをきちんと踏まえるなら、二次感染は起きているという話になります。だからこそ、ダイヤモンド・プリンセスから下船して、チャーター便に乗って帰っていったアメリカ、カナダ、香港、イスラエル、オーストラリアなど海外の人たちは、それぞれの国の政府の指示で帰国後に追加で14日間隔離されました。
そして実際に、オーストラリアでは10人近く、アメリカ、香港、イスラエルでも数人の乗客が、それからインドネシアなどのクルーの人たちからも、下船後に感染が確認されました。やっぱり、二次感染が起こっていたんです。
でも日本政府は、自分たちの出した「船内の感染管理はちゃんとできている」というステートメントが、「ちゃんとできているに決まってる」という自己暗示みたいになってしまった。その結果「下船した後は自由にしてください」と言ってしまったので、下船者はそのまま寿司屋に行ったり、スポーツジムに行ったりしたわけです。
その下船者が後から新型コロナに発症して、利用したスポーツジムは閉めなきゃいけない、ジムに来ていた人を全員濃厚接触者扱いにして監視しないといけない、おかげで保健所の監視対象が膨大に増えるという、ものすごい二次的な災害が起きました。
最初から「自分たちは間違ってるかもな」という前提で、「やっぱりうまく検疫できてなかった可能性もあるので、もう14日間延長しましょう」とやればよかったのに、厚労省は間違いを認めるのが本当に嫌なので、それができなかった。
その代わりに、下船者の感染が分かり、失敗が明らかになったら、今度は「クルーズ船にたくさん人がいたので、あれは仕方なかったんだ」みたいな話をしだすわけですよ。
仕方ないと思ってたんだったら、最初から隔離を延長しとけばいいのに、そういう議論には戻ってこない。「仕方なかったんだけど、自分たちは正しかった」という物語に基づいているので、ダブルスタンダードが生まれてるわけです。
この姿勢の一番恐ろしいことは、「反省が生じないので、改善ができない」ということです。ということは、次に同じことが起こったときにも、やっぱり同じような失敗をする可能性が極めて高いということです。
はっきり言って、失敗してもいいんです。人間だから、失敗ぐらいしますよ。
クルーズ船での感染なんてしょっちゅう起きることじゃないですし、ましてや厚労省は感染症の素人ですから、失敗ぐらい当然しますよ。
大事なことは失敗を認めて、繰り返さないために何ができるかを反省することです。
ところが彼らは自分の失敗を直視できず、どうすれば失敗を回避できたかを分析できず、次に同じことが起こったときはもっとうまくやろうという修正をせずに、「まあ、みんな一生懸命頑張ったじゃないか」って話になって、日常に戻る。
これでは、絶対に改善できない。そしてまた同じことが起こる。
(「新型コロナウイルスの真実㉗」へつづく)
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