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近鉄の新型特急「ひのとり」に乗る

2020年3月14日にデビューした近鉄(近畿日本鉄道)の新型特急でくつろぎのアップグレード旅

■「ひのとり」の人気の秘密

「ひのとり」の先頭車_近鉄名古屋

 2020年3月14日にデビューした近鉄(近畿日本鉄道)の新型特急「ひのとり」が大人気だ。その噂はあちこちで耳にしていたものの、名古屋~大阪難波間を走るので、首都圏からは乗りにくい。さらに、コロナ禍のご時世、他府県を跨ぐ移動は自粛していた。
 8月になっても、まだまだ感染者は減っていないけれど、緊急事態宣言が解除されて2カ月ほど経過。ようやく、世の中が平常に戻りつつあった8月の後半、関西へ久しぶりに仕事で出かけることになった。幸い、往路は夕方までに大阪に着けばよかったので、この機会を逃すわけにはいかないとばかり、東海道新幹線を名古屋で下車し、「ひのとり」に初乗車と相成ったわけである。

 「ひのとり」の人気の秘密は、車内のデラックスさもあるけれど、料金設定にもある。名阪間(名古屋と大阪)の移動で、まず思い浮かべるのは東海道新幹線だ。名古屋駅~新大阪駅間の所要時間は50分、値段は「のぞみ」の普通車指定席で運賃・特急券込みで6680円(通常期)である。一方、「ひのとり」はJR名古屋駅に隣接した近鉄名古屋駅から大阪難波駅まで2時間05分と「のぞみ」の倍以上かかるけれど、4540円とリーズナブル、JRのグリーン車に相当するプレミアム車両でも5240円と「のぞみ」よりも安いのだ。

 JR東北新幹線や北陸新幹線のグランクラスに匹敵する豪華なシートに身を沈めての移動でこの料金設定は破格のサービスと言うほかない。レギュラーシート(普通車)よりも先にプレミアム車両の席が埋まっていくのも理解できる。
 新幹線の倍以上時間がかかるとはいっても、大阪ミナミの難波周辺が目的地なら、新幹線利用の場合、新大阪からはなんば駅まで地下鉄に乗り換えなければならない。乗り換え時間を考慮すれば、30分以上かかるので、実質的な所要時間は1時間半ほど。となれば、30分程度の差に縮まり、時間帯によっては満員の地下鉄に乗ることを考えると、「ひのとり」は劣勢どころか優位になるともいえる。人気なのは当然なのかもしれない。
 地下にある近鉄名古屋駅の特急専用ホームでもある5番線に「ひのとり」が回送されてきた。メタリックレッドの車体はピカピカに輝き、反射してしまうので撮影は難しい。思わず見とれてしまう車体の側面には「ひのとり」のシンボルマークにローマ字で書かれたHINOTORIの文字。これを見るだけでも気分は高揚し、テンションがあがる。車内清掃は済んでいるので、ドアが開くとすぐに車内へ乗り込むことができた。

車体に輝く「ひのとり」のロゴ

 乗車の数日前に近鉄の予約サイトで大阪難波行の先頭となる6号車プレミアムシートを押さえておいた。「アーバンライナー」の場合は、名古屋寄りの車両がデラックス車両だったので、編成の両端にプレミアム車両が連結されている「ひのとり」は、中々の豪華編成といえる。
 6号車の運転台すぐ後ろや前方の席は、ほぼ埋まっていたので、「密」を避けるため後方の5Aを予約した。進行方向左側の窓側席、というよりも1人席なので、必然的に相席にはならない。通路を隔てた右側の2人席は空席。後ろの6Aと右側の2人席(6B、6C)も無人だった。シートはバックシェルといってリクライニングさせたときに前にスライドして倒れるため、後ろの人に圧迫感を与えることがない。座席の前後間隔も130㎝と広い。しかも、ひじ掛け部分にあるスイッチひとつで電動リクライニングできるし、レッグレストも備えている。ここちよく寝てしまいそうだ。

ゆったり過ごせるプレミアムシート

 しかし、まどろんでしまって目が覚めたら終点では取材にならない。そこで、くつろぐ前に車内をまわって各所を見学することにした。車窓も、桑名の手前で三大河川を渡る以外は平坦な田園風景なのだ。
「ひのとり」は、地上に出て、並走するJRの広大な車両基地の脇を走っている。6号車はハイデッカー構造なので、ステップを下りて、5号車に向かう。5号車から2号車までは、レギュラー車両で、通路を挟んで2人席がずらりと並んでいる。とはいえ、こちらも全席バックシェルを採用し、シートピッチも、プレミアムシートよりは狭いものの通常の特急車両寄りは広い。新幹線「のぞみ」普通車よりは遥かにゆったりとしている。人気の面ではプレミアムシートに及ばないので閑散としていたが、「密」を避けるためやコストパフォーマンスを考えれば断然おトクな車両だと思う。

レギュラーシートのグレードも高い

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野田 隆

のだ たかし

1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/nodatch/

 

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