日本最古の「酒都」に新風を吹き込む。若き蔵人たちの醸す酒と熱
酒探訪①みむろ杉 今西酒造(奈良・三輪)
■酒の神が鎮まる地・三輪を体現した王道の酒造り
「酒造りの工程は大手も零細も基本同じ。じゃあ、どこで味の差が出るのかといえば、すべての工程でどれだけ手間を惜しまず丁寧にこだわれるかなんです。僕らの作業はそこにすべて集約されているんです」と、今西将之さんは熱く語る。
例えば洗米では、全量を10㎏ずつ小分けで行う。少量にして丁寧に洗えば糠ぬかがよく落ちクオリティも上がるが、その分、手間も時間もかかる。
「10㎏ずつにするのは、麹だけでなく当然掛け米まで。今年は1万回洗米しました。完璧に糠を落とすと浸漬時に一粒一粒の吸水率が一定化するので、よりきれいな酒になるんです」
掛け米は雑菌汚染と米の潰れを防ぐため、シューターは使わず、すべて手運び。通常なら1人が1時間で済む作業を4人がかりで3時間かけて行っている。蒸米の放冷もコントロールの難しい機械ではなく自然放冷を採用し、麹造りも昼夜温度管理を徹底し、泊まり込みで行う。これをコンテスト出品用の酒だけではなく、すべてのクラスの酒で行っているという。
「まさに効率とのせめぎ合いです。しかし効率化すると失うものがあるのなら、非効率でもやり抜かなければならない」
今西さんたちは、最初にどんな酒を醸すかと考えた時に、酒の神が宿る場所で造る酒は変化球ではなく、王道を極めたいと思ったという。
「それは穏やかな香りがあり、米の旨みが広がるきれいな酒。飲み飽きない食中酒として楽しめる酒です。理想を理想だけで終わらせないためには、そこに辿り着くよう逆算して、すべきことをするだけです」
その思いや考えは今西さん一人だけのものではない。現在は醸造責任者の澤田英治さん、リーダーの井上昌昭さんをはじめ、蔵人たちがまっすぐな志で酒と向き合っているからこそ、実現できたことなのだ。
そして、復活した今西酒造が手掛けたのが「みむろ杉 ろまんシリーズ」。奈良県内で流通する創業銘柄「三諸杉(みむろすぎ)」に加え、彼らの酒造りを根幹から支える三輪という土地の風土や歴史に徹底的にこだわり、新たに醸した全国の特約店限定流通ブランドだ。ブランドコンセプトは、ずばり〝三輪を飲む〞。仕込み水は三輪山の伏流水。米は地元の農家と契約し、仕込み水と同じ水脈で育つ米、「山田錦」と奈良県産の酒造好適米「露つゆ葉は 風かぜ」を使用している。
再始動後は「三諸杉 袋搾り 大吟醸」が全国新酒鑑評会で金賞を4年連続で受賞するのを皮切りに、「みむろ杉 純米吟醸 山田錦」が第二回関西酒質向上委員会ブラインドテイスティングでは総合・酒造・酒販店の3部門で1位を獲得。SAKE COMPETITION 2018でははせがわ酒店賞、SAKE selection 2018では「みむろ杉 純米大吟醸 山田錦」がプラチナ賞を受賞するなど、その努力が実績となって結実している。
蔵の変革を起こしてから、わずか7年で名実ともに銘醸蔵への道を駆け上がる今西酒造。しかし今西さんは、若手の蔵は注目されやすいけれど、それを根付かせるのは難しい、と冷静だ。
「けれど、この三輪ほどの酒の聖地は世界中どこを探してもありません。だから、僕らはこの土地のご神水と米を使い、この三輪の地に残る王道の酒造りを続けていきます。僕らが築いた『みむろ杉』という山の頂上はまだまだ先。だから、そこを目指して、ただひたすらに蔵人みんなでスクラムを組んで登っていくだけです」
(『一個人』2月号より)
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