産後の「うつ状態」を薬を飲まずに改善する方法
うつぬけ食事術②
文/奥野英美
産後の「うつ状態」改善のカギは「鉄」
【質問者】Bさん:半年前に出産しました。産後、イライラしたり、憂うつだったりと、ココロが不安定な状態が続いていています。カラダもつらく、育児を楽しめません。うつなのかな? と思うのですが、授乳中なので薬は飲みたくありません。どうしたらいいでしょうか?
奥平智之先生(以下、奥平):ココロが不安定なのは、あなたのココロが弱いからではないですからね。まずは、うつ状態の原因を探しましょう。参考になるので、普段の食事内容を教えてもらえますか?
Bさん:食欲もないし、作る気力もないので、朝も昼も、菓子パンや惣菜パン。夜は、簡単なので、パスタやうどん、そばなどの麺類が多いです。
奥平:肉や魚、卵などの動物性タンパク質が不足していますね。糖質や、小麦製品も多いですし、栄養に問題がありそうですね。
妊娠・出産をするときに、特に注意してほしい栄養素は「鉄」なのですが、お聞きした食事内容ですと、鉄が不足していそうです。鉄は、胎児の神経やカラダの成長にたくさん必要なので、お母さんの鉄は胎盤を通して能動的に胎児に送られます。産後のうつ状態には、女性ホルモンも関係しますが、鉄欠乏により、ココロやカラダの不調が重くなっている人も多いんです。
鉄は、幸せホルモンであるセロトニン、ときめきホルモンであるドーパミンなどを作る過程で必要不可欠な栄養素です。脳の神経のエネルギー産生にも鉄は大切な役割を果たしています。
Bさん:「鉄」ですか?でも、私は貧血ではありませんが…
奥平:「貧血のない鉄欠乏」があるんです。
貧血の指標はヘモグロビンですが、カラダに鉄が足りているかどうかは、ヘモグロビンではわかりません。ヘモグロビンは、赤血球内の鉄。酸素を運ぶ重要な役割があるので、鉄は赤血球に最優先に運ばれます。そのため、鉄欠乏がかなり進行しないと、ヘモグロビンは低下しません。赤血球以外のカラダの鉄が欠乏していても、ヘモグロビンは基準値内であることが多く、貧血と診断されないために、多くの鉄欠乏状態が見逃されているのが現状です。
カラダに鉄が足りているかどうかは、ヘモグロビンではなく、フェリチンというタンパク質に貯蔵された鉄の量を参考にします。鉄を貯蔵するフェリチンは、全身の細胞に含まれています。産後に、髪が抜けやすくなったり、シミができやすくなったりしていませんか? 手首が腱鞘炎になったりもしていませんか?
Bさん:えっ、何でわかるんですか?
シミや抜け毛の原因は鉄欠乏?
奥平:やっぱり。鉄が妊娠・出産で足りなくなると、疲れやすい、憂うつ、イライラ、不安、睡眠障害、倦怠感などのココロやカラダの症状に加えて、美容面でも問題が出てきます。肌荒れ、抜け毛、シミなど。手首の腱鞘炎も鉄欠乏に起因した症状かもしれません。
Bさん:なぜ、美容や腱鞘炎にも影響があるんですか?
奥平:美容といえば、肌のコラーゲン。コラーゲンは、鉄+タンパク質+ビタミンC。
鉄欠乏になると、コラーゲンが弱くなります。鉄欠乏で肌の保水力が落ちたり、弾力が落ちたりして、乾燥肌やシワの原因に。血管壁もコラーゲンなので、内出血が起きやすくなり、アザもできやすくなります。腱もコラーゲン。手首の腱鞘炎は赤ちゃんが重いからではないんです。
そして、女性が気になるシミ。シミには、ホルモンも関係しますが、活性酸
素も影響しています。カタラーゼという酵素が皮膚の活性酸素を除去するのですが、これにも、鉄が必須です。
髪も女性にとっては重要ですよね? 髪はケラチンというタンパク質でできているんですが、その生成にも鉄が必須。足りないと、抜け毛の原因になります。
Bさん:出産で、シミができたり、髪が抜けたりするのは、普通のことだと思ってましたが、鉄が影響してるんですね。
奥平:そうなんです。鉄は心身や美容にとても重要な栄養素なんです。
治療についてですが、授乳中なら、精神科の薬は飲めませんし、栄養の問題かもしれないので、まずは、医療機関で、栄養面などカラダの問題がないか、血液も含めて、検査してもらうことをオススメします。鉄とタンパク質の補充で劇的に回復するような「鉄欠乏うつ」が、産後の女性には少なくありません。鉄欠乏うつからの回復には、鉄とタンパク質が大切です。赤ちゃんのためにも、しっかりと栄養を摂ってくださいね。