納税の本当の意味と「機能的財政論」:中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義第2回
中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義
■「機能的財政論」の具体例
ここまでで機能的財政論の概要を理解していただきましたので、ここからは具体例を挙げていきましょう。
例えば、景気が過熱気味でインフレが止まらなくなってしまうようなことが本当に起きた場合を考えてみましょう。とは言え、実際にはそんな経験はほとんどありません。過剰なインフレの例として「オイルショック」というのがありましたけれど、あれは中東がオイルの値段を上げたから起こったことで、べつに財政支出の拡大が止まらなくなってインフレになったわけではありません。そういった意味では、景気が過熱してインフレが止まらなくなるようなことは、あまりありません。
とはいうものの、とりあえず、もし景気が過熱してインフレが起こったとして、そういう場合は、財政支出を抑制したり増税したりすると、インフレはたしかに止まります。
逆に、デフレ不況によって貧困や失業が拡大している場合は、財政支出の拡大や減税をすれば貧困や失業は解消します。日本は今デフレなので、財政支出の拡大や減税をすべきです。今の日本は、「こども食堂」だけでなく「おとな食堂」にも行列ができるような悲しいことになってしまっていますが、これはデフレ不況によるものですから、日本の財政赤字が大きすぎるのではなくて、小さすぎるからだ、ということになります。
税には他にもいろんな役割があります。例えば累進課税というのは、お金持ちから税金をより多く取ることで平等な社会を作るための課税です。この場合、累進課税は財源確保の手段ではなくて、格差是正の手段ですね。
税金は、最終的には国会で議員先生方がお決めになりますが、国会議員の先生方は我が国をどんな社会にしたいのかの考えをお持ちだと思います。税金というのは、その社会を実現するための手段の一つなのです。貧困を無くしたいのか、賃金を上げたいのか、格差を縮小したいのか。国民のために望ましい国を作るために税を上げ下げするのであって、「財源を確保する、しない」という話ではないのです。
目下のことですと、コロナ対策のためにも財政支出を拡大すべきですし、あるいは「グリーン・ニューディール」のように地球温暖化対策のために財政支出を拡大することもあり得ます。「財政赤字がこれ以上増えないように」みたいに考えて決めるのではなくて、コロナで人が死にかけているとか、飲食店が潰れているからといったことに対して、国民をどれだけ助けられるかで財政政策を決めてくださいということです。
地球温暖化対策について言うと、「炭素税」という議論もありますが、これも税のひとつの使い方ですね。つまり、温室効果ガスを減らしたいのなら、温室効果ガスに税を課すと温室効果ガスの排出は抑制されますね。だから税というのは、「減らしたいものに重く税をかける」という使い方をするわけです。
ところで、一昨年また消費税が上げられましたけれど、消費に税を課すと、何が抑制されるでしょうか?
……そうです、消費ですね。ところで、どうして、消費を抑制したかったんでしたっけ? そう聞いたら「いやいや、社会保障財源が」みたいな反応が返ってくるわけですが、だから「自国通貨を発行できる日本政府は、財源を確保する必要がない」ってさっき言いましたよね。
ということで、消費税というのは、ほとんど何をやっているんだかよく分からない。自分で自分の首を絞めるために膨大な労力を費やしてきたのが、我が国だということです。
(第3回へ 続く)