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意外と知られていない銀行と国債のしくみ:中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義第3回

中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義

 

 銀行の実務では、銀行は預金を貸しているのではなくて、「貸し出すとそこに預金が生まれる」のです。言い換えると、手元にお金を集めて貸しているのではなくて、「貸します」と言うと何もないところからボンとお金が生まれるのです。ですから銀行は、手元にお金がなくても貸せる。要するに、銀行はお金を貸すことによって、お金を生み出しているんです。これを「信用創造」と言います。

 大事な点なので、もう少し説明します。

 銀行は、「一千万円借りたい」と言っている人の口座に、一千万円と記帳する。そうすると、その口座の中に一千万円の預金がボンと生まれます。そして、借り手がその一千万円を返すと、その預金、つまり通貨が消えます。ジェームズ・トービンという経済学者は、これを「万年筆マネー」と名付けています。昔の銀行員は万年筆で記帳していたんですね。銀行員が万年筆で「一千万円」と書くと、一千万円が生まれる。今は万年筆ではなく、パソコンのキーで打っていますので「キーストローク・マネー」ですけれどね。

 そう説明すると「そんなばかな。それならいくらでも貸し出せるじゃないか」と言われるわけですけれども、もちろんいくらでも貸し出せるわけではありません。

 どうしてかと言うと、「返してもらわないと困る」からです。だから銀行は、一生懸命「与信審査」というものをやっていますよね。

 与信審査によって借り手が返せるかどうかを判断して、返せるようなら貸します。これが実際には返せないと「焦げ付く」ってことになります。銀行の手元に預金がなくてもいくらでも貸すことができるんですけれども、それなら何が上限になるかというと、銀行の手元の預金ではなく、借り手の返済能力が上限になります。

 それでは、政府に貸す場合はどうでしょう? 政府の返済の上限額とはなんでしょうか? それは第一回で説明した通りで、政府は自国通貨を発行できるので、「(自国通貨を発行している)政府の返済能力には制限がない」ということになります。

 この「信用創造」すなわち「貸し出すことによって、何もないところから預金を生んでいる」というのは、ある中央銀行マンによると、中央銀行に就職するとまず最初に習うことだとのことです。

 例えば、イングランド銀行は17世紀に設立された歴史ある中央銀行ですが、2014年に、信用創造についての解説を書いています。そこには

 「商業銀行は、新規の融資を行うことで、銀行預金の形式の貨幣を創造する。」

とあります。

’Money Creation in the Modern Economy,’

Michael McLeay, Amar Radia and Ryland Thomas of the Bank’s Monetary Analysis Directorate, Quarterly Bulletin 2014 Q1.

 

 我が国も、全国銀行協会の『図説 わが国の銀行』でちゃんと以下のように書かれています。

 「銀行が貸出を行う際は、貸出先企業Xに現金を交付するのではなく、Xの預金口座に貸出金相当額を入金記帳する。つまり、銀行の貸出の段階で預金は創造される仕組みである。」(筆者により一部編集)

 つまり、貸し出しの段階で預金が創造されるということです。

 さらに我が国の国会でも、参議院議員の西田昌司先生(自由民主党)が、平成3144日の参議院決算委員会で日銀総裁にこう質問しています。「銀行は信用創造で十億でも百億でもお金を創り出せる。借入が増えれば預金も増える。これが現実。どうですか、日銀総裁。」

 それに対して黒田東彦日銀総裁は「銀行が与信行動をすることで預金が生まれることはご指摘の通りです。」と答えています。

 ということは、「民間貯蓄がいくらあるから政府に金を貸し出せるんだ」という話は、そもそも嘘じゃないかということになりますよね。

 

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中野 剛志

なかの たけし

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。


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