「ひきこもり」だったわたしに、両親がしてくれたこと【沼田和也】
『牧師、閉鎖病棟に入る。』著者・小さな教会の牧師の知恵
いま日本では100万人以上の人が「ひきこもり」だという。80代の親と自立できない事情を抱える50代の子どもが社会から孤立する問題として「8050問題」と呼ばれているものもある。これまで若者の問題とされてきたが、ひきこもりが長期化し、子どもが40代、50代と中高年になる一方、親も高齢化して働けなくなり、生活に困窮したり、社会から孤立したりする世帯が各地で報告されているという。なかには周囲から気づかれないまま親子共倒れとなるケースも起きている。「あなたはありのままでいいんですよ」と語ってきた牧師がありのまま生きられない人たちと過ごした閉鎖病棟での2ヶ月を綴った著書『牧師、閉鎖病棟に入る。』(実業之日本社)が話題の著者・沼田和也氏が自身もそうであったという「ひきこもり」について胸の内を語った。
平成30年時点で、広義のひきこもりをしている40歳から64歳までの人々の推計は61.3万人という。その3年前、平成27年に15歳から39歳までを対象にした調査では、やはり54.1万人の人々が広義のひきこもり状態にあると推計される。「広義のひきこもり」とは、ふだんは自宅もしくは自室にひきこもっているが、コンビニへの買い物や趣味のための外出はするということである。(内閣府「特集2 長期化するひきこもりの実態」
教会には悩みを持つ人々が連絡をしてくる。じっさいに教会に来る人もいるし、ツイッターのダイレクトメッセージやホームページのお問合せ欄から連絡をしてくる人、それに電話をかけてくる人もいる。そのなかには、ひきこもり当事者や、(別の)ひきこもり当事者の親からの連絡もあった。それぞれに言い分があり、その言葉は重かった。
ひきこもりに至る理由はさまざまであるが、わたしの出遭った人たちに限って言うなら、そのいきさつはおおむね次のようなものである。
一つには学校に馴染めず、友だちもできず、先生も信頼できず、不登校になった場合である。そのままひきこもりを開始し、現在の年齢に至るまで就学も就職もできずにいる。もう一つは就職後にひきこもる場合である。就職はしたが職場になじめなかった、上司から激しく叱責されてショックを受けた、過酷な残業が多かった、等々。それらのいずれか、あるいは複数が重なりあって休職、そのまま退職に至る。退職後すぐにひきこもる人もいるし、その後も就職活動をしたが、就職できなかったり、就職先がさらに過酷であったりして、ひきこもってゆく人もいる。学校のケース、職場のケースのいずれも、心身を病んで通院している、あるいはかつて通院していた体験を持つ人が多い。
上述したように、ひきこもる本人ではなく、その親からの相談もたまにある。すでに福祉の窓口や精神科に本人の代わりに行くなど、たいていの手を尽くした後である。それでも埒が明かないとき、宗教に頼ろうと思ったのかは分からないが、連絡をしてくるのである。わたしのところに連絡してきたのは、今のところすべて母親であり、彼女たちが話すのは息子についてであった。母親は息子に一日も早く外に出て欲しい、自分たち親が養うのは限界であると感じており、しかしそのことを息子に伝えると、必ず喧嘩になってしまうのである。相談者それぞれ別の世帯の話なのに、親たちの話は驚くほど似通っている。