「或る列車」で行く大村線・長崎本線の旅
“動くリビングルーム”でスイーツを楽しむ
九州新幹線西九州ルートと並走
こぢんまりとした木造駅舎が印象的な千綿を過ぎ、松原あたりからは大村湾とは分かれ、内陸部を走る。そのあたりから、左手には建設中の高架橋が近づいてきて、やがて大村線と並走し始める。九州新幹線西九州(長崎)ルートの線路である。2022年度に暫定開業の予定で、大村線の竹松と諏訪の間には新大村駅ができるようだ。
その間にもスイーツが続々と運ばれてきて、食べるのも車窓を見るのも大変忙しくなってきた。やがて列車は諫早に到着、2分程運転停車をしたのち大村線から長崎本線へと駒を進める。
複線の長崎本線を気持ちよく快走し、8分程で喜々津に到着。ここから長崎本線は二手のルートに分かれる。特急「かもめ」や快速「シーサイドライナー」は長大トンネルでショートカットとなる新線を通って長崎を目指すが、急ぐ必要のない「或る列車」は、時間はかかるけれど車窓のよい旧線ルートをのんびりたどるのだ。
喜々津を出ると、左へ曲がる新線と分かれて右へ進む。まもなく大村湾が見えてくる。漁船が停泊する入江を見つつ、トンネルをいくつも抜けながら海岸線を丹念にたどっていく。カーブが多くスピードは上がらないけれど、そのため車窓がじっくり楽しめるのがよい。このあたりの段々畑はみかん畑となっていて、車窓からもオレンジ色のみかんが目に留まる。皮が薄く、甘味が強い長崎みかんとして有名であると車内放送で説明してくれた。
大草を過ぎると大村湾とは別れ、山間部をゆっくりと進んでいく。本川内にはスイッチバックの側線が少し残っていた。九州では数少ないスイッチバックの駅だったが、今は廃止されて普通の駅になっている。
山間部といえども少しずつ開けていき、いつしか長崎市郊外の住宅街となる。西浦上を過ぎると、地下から喜々津で別れた新線が顔を出して合流する。左手の道路には路面電車が走り、あっという間に長崎の市街地を走っている。ぎりぎりまでスイーツやドリンクでもてなされ、食べ終わると同時くらいに列車はスピードを落として長崎駅のホームに滑り込んでいった。
横断幕を広げたスタッフの人たちの歓迎を受けながらホームに降り立つと、優雅な旅の時間は終わり、雑踏の中で現実に引き戻されるように感じた。もう少し乗っていたいと後ろ髪を引かれる思いで駅を後にした。
取材協力=JR九州
- 1
- 2