最後の河口湖行き成田エクスプレスに乗車
ダイヤ改正で幻となった成田空港~富士山麓直通トレイン
成田エクスプレス(NEX)は新宿、池袋、横浜あたりから東京駅を経由して成田空港とを結ぶ空港アクセス列車である。その中に、1往復だけ、週末限定ではあるが成田空港と河口湖を結ぶ不思議な列車があった。訪日観光客が人気の観光地である富士山麓へ行きやすいようにとの配慮から誕生したものである。しかし、諸般の事情から、2019年3月16日のダイヤ改正以後、設定されなくなってしまった。このユニークな列車に乗らずじまいで終わるのは悔しいので、最終列車となった3月10日の列車に最初で最後の乗車をしてみることにした。
もっとも、わざわざ成田空港に出向くのも面倒なので、東京駅から乗車しようと試みたのだが、成田空港から乗車するのでなければ、指定券は新宿からしか申し込めないことが判明。そこで新宿駅から河口湖駅までの乗車となった次第である。
新宿駅に行くと、列車の発車案内板に「成田エクスプレス8号、河口湖行き」と出ていた。これもこの日限りで見納めとなるのであろう。ホームに降りて待つことしばし、見慣れた成田エクスプレスが新宿駅5番線に入ってきた。成田エクスプレスは新宿駅が終点となる列車が多く、池袋行きであっても新宿駅から乗車する人はいないから、成田空港行き以外の列車に乗車するという行為は稀有なことである。全車指定席だから、まず間違えることはないはずだが、念のためであろう、この列車は成田空港には行きませんという放送があった。
新宿駅から乗車する人も少なからずいて、後に続いて車内に入ると成田空港から乗り通して来たと思われる訪日観光客の姿が目に入った。成田エクスプレスの特急料金は割高なので、敬遠する日本人は結構いるのだが、ジャパンレールパス利用の外国人にとっては追加料金なしに指定券が取れるのだから指定料金の額は問題ないのである。
ほどほどの混み方で新宿駅を発車。私の隣の席は空いたままだった。成田エクスプレスの車内には、空港アクセス列車らしく、4か国語での案内表示やルートマップなどが普通の列車よりも頻繁に掲示されるし、提示場所も多い。見ているだけでも楽しくなるけれど、河口湖や中央本線の高尾以遠が表示されるのは、この日限りである。1日2往復程度の成田空港発高尾行き列車は温存されるので、次の停車駅立川という表示は、今後も見ることができるのである。
立川まで順調に走り、延々と続いてきた直線区間が終わり、立川発車後久しぶりにカーブして多摩川を渡る。あいにくの曇天だったので、晴れていれば見えるはずの富士山は姿を現さなかった。
八王子でも何人か乗ってきた。私の隣にも若い男性が着席した。高尾行きの成田エクスプレスがあるのだが、この列車は高尾を通過。ホームに鎮座している天狗の像が、通過するのはけしからんと思っているような怖い表情でこちらを睨んでいた。
いよいよ山岳地帯に差し掛かる。成田エクスプレスの車内から山岳風景を眺めるのは珍しい。そういえば、成田エクスプレスではないけれど、成田エクスプレスの車両であるE259系を使った「マリンエクスプレス踊り子」が週末を中心に東京駅と伊豆急下田駅の間で運転されている。一度乗って根府川あたりの山深いところから相模湾を眺めたことがあるけれど、それと並んでE259系の車内からとしては異色の車窓である。
山岳風景を堪能していると車掌が2人でやってきた。指定席の場合、車内検札を省略することが多いのだけれど、珍しく「切符を拝見」なのだろうか?しかし、車掌は検札ではなく、ティッシュペーパーと富士山をバックに走るNEXの写真入り記念カードを配りにきたのだった。最終列車ということで特別のささやかなサービスだったようである。ティッシュペーパーの袋には「中央線が変わる」というキャッチフレーズの語句が踊り、3月16日から全部の中央線特急の車両となるE353系の写真が表示されていた。成田エクスプレスの河口湖行きはなくなるけれど、代わってE353系の「富士回遊」号が新宿~河口湖間を平日2往復、土休日3往復することになった。
大月からは、いよいよ富士急行線に乗り入れる。車内は静かだけれど、ホームでは最後の成田エクスプレス河口湖行きの写真を撮ろうと鉄道ファンが右往左往していた。やがて列車は大月駅を発車、直通列車しか走らない線路を経由して無事富士急行線に入った。
富士急行線はJRの路線ではないのでジャパンレールパス利用者は、別途運賃を払わなければならない。富士急行の車掌が車内を行き来し、外国人利用者に英語で説明しつつ事前に乗車券を買わなかった乗客からお金を払うよう促していた。世界遺産登録以来、富士山は世界的観光地になったので、富士急行に乗る外国人も増えている。車掌も外国語で対応するなどサービス向上には目を見張るものがある。
新宿を発車してから、ずっと曇天だったが、このあたりまでやってくると快晴とはいえないけれど、富士山の麗姿が車窓に現われるようになった。これは嬉しい。
リニア試験線の堂々たる高架橋の下をくぐり、都留文科大学前に停車する。隣の男性はここで降りていった。三ツ峠を通過するあたりで車内放送があり、左に富士山が見えるとのこと。あいにく右側の席だったので、デッキに向かいドアの窓越しに富士山を眺めることにした。成田エクスプレスの車両は観光用ではないのでドアの窓は小さい。幸い他に客はいなかったので、存分に富士山の麗姿を撮影することができた。気づくと後ろにスマホ片手の乗客がいる。すでに充分満足したので、場所を譲って席に戻った。
このあたりは、富士急の電車と富士山を絡めて撮影できる名所なので、成田エクスプレスの最後の走りを撮影しようとするファンの姿も目に付いた。この日はホリデー快速の運行最終日でもあったので撮り鉄には忙しい日だったと思う。
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