城崎温泉駅から鳥取駅までローカル列車の旅
「鉄分高め」なタラコ色のキハ40系ディーゼルカー
日本海に突き出た断崖を眺めながら進み、トンネルの間にあるような鎧(よろい)駅を発車し、長いトンネルを出ると目の眩むような谷底を渡る。有名な餘部(あまるべ)橋梁だ。1912年に完成した鉄橋は老朽化が進んだため、2010年に新しくモダンな橋に架け替えられた。
私は、旧橋梁時代の末期に訪問したことがあり、今回それ以来の通過となった。橋を渡り終わると餘部駅に到着するが、ホーム上には多くの人が待ち受けていた。鉄道ファンのみならず女性観光客も目につき、今や餘部橋梁は、有名な観光地になっているようだ。ホームやその周辺もきれいに整備され、昔の秘境的な雰囲気はなくなってしまったとも言える。
かつての餘部駅訪問時には、駅近くの「お立ち台」で鉄橋を渡る列車を撮影して、城崎方面へ戻ってしまった。餘部から鳥取までの区間は、寝台特急「出雲」や夜行急行「だいせん」で通過したことはあったものの、夜間であり、寝台で横になっていたため、車窓を眺めた記憶がない。よって、昼間に景色を眺めながら通るのは今回が初めてなのである。
餘部駅よりも前の車窓とそれほど雰囲気がかわることはなく、「今は山中、今は浜」という変化に富んだ魅力的な風景が続く。
浜坂に到着。ここで9分も停車する。せっかくなのでホームに降りて写真を撮ったり、改札口脇の窓口で入場券を買ったりと、充実した9分を過ごした。なお、ホームの看板に書かれているように浜坂は「カニと湯の町」だ。また、吉永小百合主演のテレビドラマ「夢千代日記」の舞台である湯村温泉も駅前からバスで行くことができると大きな看板でPRしていた。
浜坂の次の諸寄からしばらくは山の中を行く。ようやく海が見えてくると東浜に到着する。小さな無人駅だが、洒落たガラスの小さな待合室や鏡張りの天井のあるエントランスには驚く。この駅は、豪華列車TWIGHLIGHT EXPRESS瑞風が立ち寄り観光地として停車することになったので、それに合わせて改装したのだ。駅からすぐのところには豪華列車の乗客のためのイタリアンレストランもでき、沿線の中では異彩を放っている。駅を出てすぐに海岸線が見えるが、確かに美しい風景だと思う。
その後は淡々と進み、いつしか海は見えなくなり、再び山の中である。福部で上り列車と行き違う。向うの列車は新しいステンレスのディーゼルカーだが1両のみ。ほぼ満席だ。旧型車両ながらも2両編成でゆったりした我が列車の方がくつろげる。
次は、終点の鳥取との放送が入る。県庁所在地の駅の隣なのに、ずいぶんひなびたところだ。しかも鳥取駅まで15分もかかり、とても都市近郊とは思えない。途中で線路が分岐する個所があり、よく見るとスイッチバックだ。けれども、列車は無視して通過していく。廃駅かと思ったら、立派な現役の施設で滝山信号場という。ただし、行き違いを行うために、ここで停車する定期列車は、今はない。
ちょっとボーっとしているうちに列車は市街地にさしかかり、高架を走るようになる。いよいよ終点鳥取だ。駅が近づくと、車窓から「すなば珈琲」の文字が目に留まる。鳥取には「スナバ(砂場=砂丘)はあるけれどスタバ(カフェ)はない」という自虐ネタが広まったことがあったが、すなば珈琲には驚いた。もっとも、帰宅後、複数の知人にこの話をしたら、結構良質で個性的なお店だそうで、立寄ることを奨められた。次回の楽しみに取っておこう。
高架で近代的な駅なのに架線が張られていない鳥取駅は、県庁所在地の駅としては珍しい造りだ。ローカル鈍行列車の旅はここで終わり。充実した2時間を過ごすことができた。
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