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「財政支出を拡大すると、本当に経済は成長するのか?」アメリカと日本の財政政策の違い【中野剛志】

中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義 第5回《最終回》

 

■「将来へのツケ」を残すな

 

 ここまでの議論のまとめです。

 日本にはデフォルトのリスクはない。金利高騰のリスクもない。インフレリスクは低く、むしろ懸念すべきはデフレのリスクですから、財政出動・財政赤字を拡大すべきです。「拡大していい」どころか、「拡大すべき」なのです。

 財政支出の上限や課税の方針は、インフレ率や失業率など、国民経済に与える影響を基準に判断してください。「7人に1人の子供が貧困」だとか「賃金が下がりっぱなし」だとかいうときに財政出動を躊躇する理由なんてないんです。

 

 翻って我が国日本は、この20年間、「財政構造改革」だの「歳出削減」だのとずっとやってきた結果、何が起きたかと言えば、保健所の数が半分になったわけですし、コロナワクチンの開発も我が国はできなかった。社会インフラの維持や研究開発投資を政府がやってこなかったから、そのツケを今払っているわけです。

 第1回で説明したように、経済学者たちが財政破綻を予測し、「将来にツケを残すな」と言って財政赤字を削減しようとやってきた結果、今回のコロナで我々はその「ツケ」を払うはめになってるわけですね。「財政赤字を拡大するな」と言っている人たちのほうが将来世代にツケを残している。

 大変無責任なことですが、もちろん悪気があってやっているとは思いません。単に、企業経営や家計の経営みたいに国家運営を考えている「無知」だというだけです。

 

 デフレ下、さらにコロナ禍においては財政政策が最も有効であるという点に関して言えば、これはもはや主流派経済学者のコンセンサスです。MMTを支持するかどうかなんて関係ありません。そして、イエレンも言っているように、財政政策は、単なる短期の景気対策ではありません。主流派の経済学者も、財政政策は長期の成長戦略でもあると考え方を変えています。

 むしろ現在は、コロナ禍による倒産・廃業・失業を放置すると、供給力が萎んでしまい長期的には成長しなくなる局面です。コロナと同じで、経済にも「後遺症」が残るのです。

 コロナ禍の不景気の後遺症が残ると、コロナ自体はワクチンで解決するときが来ても、日本は二度と成長できない経済になっている可能性が高い。イエレンもアメリカがそうなることを恐れているわけです。

 それこそが本当の意味で「将来世代へのツケを残す」ことです。ですから、いまこの国がやるべきことは明らかではないでしょうか。

 

(中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義 最終回)

 

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中野 剛志

なかの たけし

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。


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