内田樹氏に訊く! 「アメリカにはない、日本の政治機構の致命的な欠陥とは?」 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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内田樹氏に訊く! 「アメリカにはない、日本の政治機構の致命的な欠陥とは?」

民主主義と安倍政権 思想家・内田樹氏に訊く!「安倍晋三はなぜ、“噓”をつくのか?」 

政治家や官僚たちの不適切な発言や不正問題が明らかとなり、閉塞感が続く日本の政治——。憲政史上最長が見えてきた安倍首相。政治家・安倍晋三がここまで「強い」理由はどこにあるのか? また、安倍政権のどこが問題なのか?  書籍『「安倍晋三」大研究』(望月衣塑子&特別取材班・佐々木芳郎 著)より、政治家・安倍晋三を考えます。

国会答弁での“嘘”に合わせて改ざん! ?

――森友疑惑では、首相の二月一七日の国会答弁直後から、これを聞いた中村課長らが、首相や昭恵夫人の名前が記載されていた決裁文書の改ざんを近畿財務局職員らに指示していくことになりました。結果として、意に反して改ざんを強いられた近畿財務局の職員たちは、相当に苦しめられたと思います。自殺者まで出てしまいました。

内田 首相の「とにかく非を認めるのが嫌だ」という頑なさは常軌を逸していると思います。でも、人は失敗を認めないと、誤りの修正ができない。失敗を認めない人は同じ失敗を繰り返す。過去の失敗だけでなく、これから取り組む政治課題についても、自分の能力が足りないから「できない」ということを言いたくない。だから、「できもしない空約束」をつい口走ってしまう。人格的な脆弱性において、ここまで未成熟な為政者はこれまで戦後日本にはいたことがない。このような為政者の登場を日本の政治プロセスは経験したことがないし、予測してもいなかった。だから、そういう人間が万一出てきた場合に、どうやってこの為政者がもたらす災厄を最小化するかという技術の蓄積がない。

 アメリカは、その点がすぐれていると思います。デモクラシーというのは、つねに「国民的な人気があるけれど、あきらかに知性や徳性に問題がある人物」を大統領に選んでしまうリスクを抱えている。アメリカでは、建国の父たちが、憲法制定時点からそのリスクを考慮して、統治システムを設計した。「問題の多い人物がたまたま大統領になっても、統治機構が機能し続けられる」ようにシステムが作られている。

『アメリカのデモクラシー』を書いたアレクシス・ド・トクヴィルがアメリカを訪れたときの大統領はアンドリュー・ジャクソンでした。トクヴィルはジャクソンに面会して、このように凡庸で資質を欠いた人物をアメリカ人が二度も大統領に選んだことに驚いていますけれど、同時に、このような愚鈍な人物が大統領であっても統治機構が揺るがないアメリカのデモクラシーの危機耐性の強さに対して称賛の言葉を書き記していました。

 いまでもそうだと思います。ドナルド・トランプは知性においても徳性においてもアメリカの指導者として適切な人物とは思えませんけれど、とにかくそれでもアメリカのシステムは何とか崩れずに機能している。議会や裁判所やメディアが大統領の暴走を抑止しているからです。

 アメリカ人は政治に大切なものとして「レジリエンス(復元力)」ということをよく挙げますけれど、たしかに、ある方向に逸脱した政治の方向を補正する復元力の強さにおいては、世界でもアメリカは卓越していると思います。そして、いまの日本の政治過程に一番欠けているのは、それだと思います。復元力がない。

 日本の場合、明治維新以後は元老たちが総理大臣を選んできました。非民主的なやり方でしたけれど、「国民的人気はあるけれど、まったく政治的能力のない人間」が登用されるというリスクは回避された。戦後の保守党政治でも、「長老たち」の眼鏡にかなう人物でなければ首相の地位にはつけなかった。でも、そういう「スクリーニング(選抜・審査)」の仕組みはもう今の自民党では機能してないですね。

安倍首相のいいところは何か?

――しかし一方で安倍首相は、政治家も記者も、いいなと思った人は、とことん大切にすると聞きます。改ざんの首謀者ともいわれた、佐川宣寿理財局長(当時)がどれだけ世論から批判を浴びても国税庁長官に栄転させたり、佐川氏同様、国会で「記憶にない」を連発した柳瀬唯夫元首相秘書官が、NTTグループの社外取締役に退職後、就任したりと、首相の身内から告発めいた話が出てこないのをみると、やはり仲間や官邸に従う官僚を良くも悪くも大切にする政治家なのではないかなという気がします。

ーー内田先生は、安倍首相の優れていることは何だと思われますか? 人を従わせるための権力の使い方には長けているところ?

内田 人間の卑しさと弱さについて熟知している点ですね。どうすれば人の弱みにつけこんで、操縦できるかということについてはたしかな知識と技術を持っていると思います。

――(苦笑)。私は、任侠的精神があると思います。自分の側に付いた人はきちんと大切にする。第二次安倍政権発足以降、今日まで、安倍―麻生―菅のトライアングルは崩れません。とはいえ、四月の福岡県知事選で麻生氏が推した候補者が大差で破れ、〝令和おじさん〞の菅氏が頭一つ出てきた印象がありますが……。

 もっと言えば、小泉政権下の郵政選挙で自民党を離党した平沼赳夫氏を、安倍首相は唯一、自民党に復党させることを考えていました。チーム安倍は見捨てない、というところがあるようにも見えます。盟友、故中川昭一氏が酩酊状態でも、記者会見のときに乱れたワイシャツの襟をかいがいしく直していたのは安倍首相でした。

『「安倍晋三」大研究』(望月衣塑子&特別取材班・佐々木芳郎 著、KKベストセラーズ)より

望月衣塑子 (もちづき・いそこ)
東京新聞記者。1975年、東京都出身。慶應 義塾大学法学部卒。千葉、埼玉など各県警担当、東京地検特捜部担当を歴任。2004年、 日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の事実をスクープし自民党と医療業界の利権構造を暴く。社会部でセクハラ問題、武器輸出、軍学共同、森友・加計問題などを取材。著書 に『武器輸出と日本企業』、『新聞記者』(ともに角川新書)、『追及力』( 光文社新書 )、『THE 独裁者 国難を呼ぶ男 ! 安倍晋三』(KK ベストセラーズ)『権力と新聞の大問題』『安倍政治 100のファクトチェック』(ともに集英社 新書)など。
特別取材班  佐々木芳郎(ささき・よしろう)
写真家・編集者。1959 年生まれ。関西大学商学部中退。 在学中に独立。元日本写真家協会会員。梅田コマ劇場専 属カメラマンを皮切りに、マガジンハウス特約カメラマ ン、『FRIDAY』(講談社)専属契約、『週刊文春』(文藝 春秋社)特派写真記者、『Emma』(前同)専属契約を経 て、現在は米朝事務所専属カメラマン。アイドルからローマ法王までの人物撮影取材や書籍・雑誌の企画・編集・ 執筆・撮影をしている。立花隆氏との共著『インディオの聖像』(講談社)は 30 年のときを経て制作予定。

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