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「在宅介護は愚かな選択。施設介護が正解」そんな断定意見への違和感

【隔週木曜日更新】連載「母への詫び状」第四十二回

■「母を息子ひとりで自宅介護」への非難

 父の葬儀やら、遺産相続の手続きやら、煩雑な作業を終えると、母の介護に専念する日々が始まった。

 母はがんのステージ4の診断を受けており、抗がん剤の服用や、月に数回の病院通いをしながらの在宅介護生活だった。

 しかし「母を息子ひとりで自宅介護しました」と言うと、なぜか非難に近い反応をする人も時々いる。

「素人が介護なんてするもんじゃない。いつか共倒れになる自殺行為だ」
「なぜ介護保険や福祉サービスを利用しないんですか。調べればたくさんあるのに」
「仕事はどうしたんですか。辞めたんですか」

 ひとりで在宅介護したと言っても、もちろん福祉サービスは多数利用させてもらった。週に2回のデイサービス、週に1回の訪問看護は、本当にありがたかった。介護用具も、ベッド、車いす、手すりなど、みな介護保険によるレンタルだ。

 母を介護するにあたり、最初にやったのは自宅の簡単なリフォームだった。

 家では車いすの生活が中心になるから、床の段差をなくし、病院やデイサービスへ出かけるときのために玄関も手を入れた。レンタルの車いすも、小回りの利く機種がいいか、自力でこげることを見越した機種がいいかなど、全部、ケアマネージャーが相談に乗ってくれた。

「ひとりで介護」とは、誰にも頼らなかったという意味ではない。「在宅介護」という言葉も、家族がすべて背負い込むようなイメージがあるのかも知れないが、それは違う。医師や看護師、介護士、いろんな人の協力を仰ぎながらの在宅介護だ。

 心配だったトイレは、介護ベッドの脇にポータブルトイレを置いた。さすがにトイレはレンタルなしのため、これは購入する必要がある。消臭機能付きや、便座を温める機能など、こちらもいろんなタイプがある。

 素人は介護なんて手を出さず、専門の施設に任せるべきだという意見に対して、大きな声で反論するつもりはない。それぞれの家庭で状況はみな違うのだから、それぞれの家庭が決めればいい。

 ぼくも、認知症で徘徊癖のあった父はとても面倒見きれないと判断したから介護施設にお願いした。母は認知症もなく、ぼくが24時間そばにいてあげられる状況だったから、在宅介護を選んだ。自分が立派なことをしたとも思ってもいないし、バカげた選択をしたとも思っていない。

次のページ介護で見つかる幸せもある。

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夕暮 二郎

ゆうぐれ じろう

昭和37年生まれ。花火で有名な新潟県長岡市に育つ。フリーの編集者兼ライターとして活動し、両親の病気を受けて帰郷。6年間の介護生活を経験する。



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