異端的正統派・深田恭子は何に「適応」できなかったのか【宝泉薫】
深田も38歳。浮いた噂はこれまでにもあったし、現在も交際中の男性がいることが報じられている。ただ、その恋愛の方向性みたいなものが適応をめぐる問題の解決に即つながるか、というと、そうでもなさそうに思えるのである。
というのも、彼女の男選びは脚本家の野島伸司にせよ、ジャニーズの亀梨和也にせよ、生活の安定には結びつきにくい傾向を感じさせる。今の恋人にしても、成功した実業家とはいえ、かなりやんちゃなタイプ。バイクチーム「死ね死ね団」に入っていたとか、父とのケンカで刺されかけたといった武勇伝の持ち主だ。6月の会見では、
「18歳までに3回ほど死にかけています」
とも語った。
ただ、お姫さまキャラの女性はとかくこういうタイプを好きになりがちだ。特に、彼女には悲劇のヒロイン願望というか、朋ちゃんやアントワネットみたいな危うげな女性への親和性がある。そして、そのあたりが彼女の魅力でもあるからややこしい。
たとえば、出世作となったドラマ「神様もう少しだけ」(フジテレビ系)でのこと。ヒロインとはいえ、援助交際でHIVウイルスに感染してしまう女子高生という汚れ役のオファーに、彼女は、
「この役、やってみたいです」
と意欲を示したという。2000年刊行の「ホリプロの法則」によれば「言われるままに仕事をこなしていた」彼女が「初めて自分の意志を口にした」出来事だった。
処女作や出世作にはその人の本質があらわれているものだが、このケースもまたしかり。こういうところが女優向きなゆえんで、20年以上も芸能界で活躍してこられた理由だろう。たとえこのままフェイドアウトすることになっても、彼女が残した功績が消えることはない。
ところで、適応障害を考えるうえで思い出される言葉がある。
「強いものが生き延びたのではない。変化に適応したものが生き延びたのだ」
という進化論をめぐる言葉だ。これは同時に「強さ」と「変化に適応すること」とが別物だということも示している。
人間の一生についても、ほどよく適応できたほうが楽に生きられそうだが、その人が強いかどうかとは別の話だろう。適応に障害をきたしても、その人ならではの強さ、あるいは魅力があり、充実した生き方が可能なことを、有名人たちの事例は教えてくれる。深田にもゆっくり休んだうえで、できればまた、それを証明してほしいものだ。
文:宝泉薫(作家・芸能評論家)
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