イスラム法学者とアラビストが映画『ジャーニー』を観に行った…【中田考のレンタルおじさん】
中田考「レンタルおじさん、始めました」連載第2回
■謎のオマージュ
依頼者:普段からアニメ見てる人にとっては、どこかで観た様なシーンがあってアブラハの象に乗ってるシーンなんて完全に「北斗の拳」のサウザーのポーズだし。敵の代表と戦うシーンで、でかい斧持っている奴いたけどあれも「幽遊白書」の武威みたいな感じだし。戸愚呂チームかっていう。
中田:言われてみればそっかぁ。
依頼者:真似しても全然良いんですけど
榮谷:主人公が実話に基づく普通の人の話だという設定ですから、あの高さから飛び降りたらただですまないでしょとかそういうのが気になりました。私は。
中田:そうですよね
依頼者:全体的にテキトーなんですよ
中田:主人公、北斗の拳みたいに超人的な人間っていう設定じゃないからね
依頼者:ズラーラに同じ軍の奴が殴られてたシーンとかもその後に全く活きてなかったですよね。伏線でもなんでもなかったっていう。普通のアニメとかだとさっきは殴ったけど戦場で助けるとかあるんですけど、全く無い。プロット一直線ですね。信仰の無いやつが死ぬっていうだけで、その伏線だけ
中田:無いねぇ。笑えるシーンも無かったしねぇ。
依頼者:そういえば女性の髪が出ていましたね
中田:あれも今のサウジアラビアが開かれていますよ、っていうアピールなんだろうね。ユダヤ人の少女も謎に可愛く描いていたしね。ただイメージを良くしたいので可愛く描いてみた、っていうので全然アニメのキャラの可愛さではない。可愛くは書かれてはいても、ツンデレのギャップ萌えだとか、アニメの文法は少しも押さえていませんよね。
■「ジャーニー」というタイトル
依頼者:そもそもタイトルのジャーニーってのはなんなんですかね
榮谷:アブラハさんの旅?
依頼者:エチオピアから遠路遥々神の奇跡を起こすためにやってきたとか。
中田:そうかも。ウフフ。
ネットのレビューを読むと、有名人たちが褒めてますが、宣伝のサイトだから当たり前と言えば当たり前ですけど。なにしろ暗殺団を派遣し反体制派のジャーナリストをトルコのサウジアラビア領事館で殺害しバラバラにして化学薬品で溶かして証拠隠滅させた容疑(2018年10月2日、カショギ暗殺事件)で国際的に非難されているMbS皇太子の後援する映画ですから、みんな怖くて公然とは批判できないのかもしれません。でもよく読むと「幼児に見た東映まんがまつりを令和に彷彿」とは「昭和レベルの画像処理の技術」の婉曲表現、「あと象がかわいい」は「キングダム」の女傑媧燐大将軍が象部隊を前にして「戦象さんだよ。目がかわいい」と言う名シーンと比べて、同じ象部隊を描いても全く面白くない「ジャーニー」への皮肉なのかもしれません。
◆映画「ジャーニー」は渋谷TOEIにて7/16より公開予定。緊急事態宣言発令中ですが気になる方はどうぞ。
構成・文:ヒサマタツヤ