日本人は「どうやって」「どこから」来たのか?ホモ・サピエンスの壮大な旅を探る
◆難関の沖縄ルート、大航海の再現実験で日本人のルーツを探る
九州から台湾まで1200㎞の海に連なる琉球列島に3万年前、突然、人類が登場する。それは、なぜか。どうやったのか――この謎を解くべく、海部さんたちが立ち上げたのが「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」だ。※3
台湾と与那国島は直線距離で100㎞以上。そこを最大幅100㎞で秒速1~2mの黒潮が流れている。実験用漂流ブイを流しても琉球列島には漂着しない。だから、意図的に琉球列島を目指した人々がいたと考えるのが論理的だ。
「台湾から海を渡って沖縄へ来た集団がいたことは確かです。でも、どうやって海を渡ったのか分からない。その答えは遺跡を掘っても見つからない。不思議で、知りたいから、自分でやってみようと思ったんです」
プロジェクトは、台湾や与那国島にある材料を旧石器で加工して舟を作り、それが実際の航海に使えるか検証するものだ。海図もGPSも通信手段も目的地(与那国島)の情報もない、場所によっては舟から見えないほど遠く、小さな島を目指して漕いでいく。
「それは本当に〝命がけ〟だったはずです。旧石器時代の人類のチャレンジの難しさは実際に体験してみないと分からないと思います」
しかも、彼らの意図は〝移住〟だった。「祖先たちは琉球の島々に住み着き、人数を増やします。だから男女でやって来た。出生時の死亡率や初産の年齢などさまざまな要素が関わりますが、理論上では10人の男女がいれば人口が増えていく、という計算が成り立つようです。女性もいっしょに舟を漕いで来たんですね」
と、いうわけで、海部さんたちの実験航海では男女合わせて5人が丸木舟に乗り組む。人類の移住を再現するためには「2艘で行かなければならないのですが、予算の関係で叶いませんでした」。
そう、海部さんたちはインターネットのクラウドファンディングで一般から資金を募ったのだ。2016年4月に2000万円を目指して支援者を募集、875人が合計2638万円を拠出した。2018年9月には「完結編」として877人から3304万2000円を集めている。海部さんたちはこれら支援者を〝クルー〟と呼んで、研究チームの一員と考えている。
「こんなにおもしろいことをサイエンティストだけの楽しみにしておいちゃいけません。ぜひオープンサイエンスとして、みんなで考えたい。知識や科学的謎解きの面白さを、多くの人と共有したいんです。私たちの先祖のことを、みんなに知ってもらいたい、いや、知っておくべきだと思います」
国立科学博物館人類史研究グループ長
海部陽介さん
東京大学理学部卒業。東京大学大学院理学研究科博士課程を中退、1995年より国立科学博物館に勤務。アジアの人類進化・拡散史の研究で日本学術振興会賞を受賞した。著書に『人類がたどってきた道』(NHKブックス)、『日本人はどこから来たのか?』(文春文庫)ほか多数。
「3 万年前の航海 徹底再現プロジェクト」の歩み
2016年 草束舟の製作とテスト航海。
2017年 台湾での竹筏舟製作とテスト航海。丸木舟用の杉伐採実験。丸木舟用の杉伐採実験。
2018年 竹筏舟と丸木舟の実験
2018年9月~2019年3月 館山の海で丸木舟海上テスト。
2019年5月26日~6月7日 台湾・台東県の海で準備合宿。
2019年7月7日~7月9日 本番実験航海。台湾→与那国島までを渡り切る。