ケルトン教授の来日を機に、日本史からMMTを考えてみました
ケルトン教授の来日に際して、中野剛志先生が緊急寄稿!
■MMT(現代貨幣理論)のブームが続いています。
7月16日には、MMTの提唱者のひとり・ステファニー・ケルトン教授が来日して、シンポジウムが開催されました。
もっとも、日本では、相変わらず、MMTの批判の声ばかり。
MMTは「自国通貨を発行できる政府はデフォルト(財政破綻)しないので、高インフレでない限り、財政赤字を拡大してよい」と論じています。
もっとも、これは、単なる「事実」を語っているに過ぎません。
通貨を発行できる政府が、自国通貨建ての国債を返済できるなんて、当たり前の「事実」です。アルゼンチンなどデフォルトの事例はありますが、それは外貨建て国債に関するものです。
ちなみに、財務省ですらも、この「事実」を認めています。
平成14年、財務省は、日本国債の格付けを引き下げた海外の格付け会社に対して、質問状を発出しました。そこには、こう書かれています。
(1) 日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を
想定しているのか。(※財務省HP参照)
MMTは、この「事実」を指摘しただけなのです。
MMT批判者たちも、さすがに「事実」を否定するわけにもいかない。
そこで、彼らは、まるで示し合わせたかのように、こうMMTを批判し始めました。
「いったん、財政赤字の拡大を許したら、インフレが止まらなくなる。その時、政府は、インフレを制御できなくなる。なぜなら、増税や歳出削減は、政治的に難しいからだ。それが、歴史の教訓だ!」
みんなで口をそろえて、こう批判するものですから、「確かに、そうかもしれないな」と思った方もおられるかもしれません。
しかし、実は、この「財政赤字を拡大したら、インフレが制御できなくなる」というのもまた、「事実」に反しているのです。
そもそも、インフレが制御できなくなりハイパーインフレになったという事例は、戦争(第一次世界大戦後のドイツなど)、独裁政権によるデタラメな政策(ジンバブエのムガベ政権)、社会主義から資本主義への移行に伴う混乱(旧ソ連諸国)、経済制裁(現在のイランなど)など、政治的に極めて異常な事態になったレアケースに限られます。
いずれも、「財政赤字の拡大が止まらなくなった」というのとは違います。
また、1970年代の先進諸国における高インフレも、財政赤字の過剰な拡大というよりは、石油危機が主な原因でしょう。
しかも、その高インフレも1980年代には収まり、それ以降、今日まで低インフレが続いています。戦後の先進諸国の中で、インフレを制御できなくなった国はありません。
これは「事実」です。
念のため、日本についても、確認しておきましょう。
戦時中から終戦直後の日本は、確かに高インフレに苦しみました。
しかし、その原因は、空襲により供給能力が破壊されていたことに加え、戦時中は軍事支出、戦後は復員軍人への給与、発注済みの軍需品に対する支払いや損失補償があったために、財政支出が膨張したせいです。
要するに、高インフレの原因は、戦争という特殊事情だったということです。
なお、1944年当時の対GNP比の政府債務残高は、204%でした。
現在の日本の対GDP比政府債務残高は230%を超えており、1944年当時を上回っています。
それなのに、今の日本は、1944年当時とは逆に、デフレです。
これらの「事実」が示すのは、「政府債務残高の数値の大きさ自体は、インフレとは関係ない」ということです。
ちなみに、この終戦後の高インフレは、ドッジ・ライン(占領軍による厳しい緊縮財政)によって収束したと言われますが、日本経済史の大家である中村隆英先生によれば、ドッジ・ラインの前に、インフレ収束の条件はすでに整っていました。
- 1
- 2
KEYWORDS:
日本のMMT[現代貨幣理論]ブーム仕掛け人・中野 剛志の簡単解説。
最高の入門書!!
『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』
Amazonベストセラー【経済学】売れ筋ランキング2位(2019.7.18現在)
『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』
Amazonベストセラー【経済学】売れ筋ランキング1位(2019.7.18現在)
ともに3刷重版決定!!!
「こんなに高度な内容をこれ以上わかりやすく書くのはもう無理です。
――中野剛志
経済常識が180度変わる衝撃!!
日本経済はどうなるか、どうすべきかがよく分かる
今年度最高の経済書2冊!!!
世の中のカラクリをここまでバラした。